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「TOPコレクション イメージを読む 写真の時間」展 : 写真は時間をも写し取るもの [美術 : 美術展、写真展紹介]

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東京都写真美術館で「TOPコレクション イメージを読む 写真の時間」展を観てきました。

★ 展示内容

公式サイトによると、
写真とは、一瞬の時間を切り取ったものと捉えられるかもしれません。しかしながら、例えば私たちがある写真を目にする際、そのイメージは記憶の奥深くにまで働きかけ、現在だけでなく、過去や未来、はたまた音や匂いといった視覚以外の感覚をも喚起することもあるでしょう。そのようにして、私たちは写真に時間の流れや物語を感じとるのです。
とあり、写っている被写体の前後の動きや状態が想像できたり、さらには写された人の過去や人生までもが感じられる、そんな作品を収蔵品中からピックアップして企画された写真展です。

展示構成は以下の通り。
  • 第1章 製作の時間
  • 第2章 イメージの時間
  • 第3章 鑑賞の時間


写真の黎明期、フィルム(感光紙)を感光させるには時間が掛かった。長時間露光は動くものを影のような存在にし、そこに時間の流れがあったことを示していた。また、ブレも被写体の動き・躍動感を示すものだった。
ロバート・キャパの、Dデイの上陸作戦を写した一枚はまさにそんな一枚(「ちょっとピンぼけ」はタイトルがズバリそのもの)。また、東松照明の学生運動を写した一枚も、アレた画面にピンぼけの学生と、対峙する機動隊の姿が二枚の写真にそれぞれ写しとられていて、現場の緊迫感や騒然とした雰囲気を伝えている。
やがて、それは一つの技巧となり、長時間露光やブレは表現の手段となった。

直接的に“動き”を捉えている訳ではないものの、被写体の持つ雰囲気が、その人物の生い立ちだったり、人生だったりを伝えている作品も多い。そこには、目には見えない時間の流れ、いや時間の蓄積が含まれている。
W.ユージン・スミスの「ピッツバーグ」シリーズは、読書をしたり、仕事の合間に新聞を読んでいる人々を写したもの。後ろ姿で表情も読み取れないものもあるが、その人の日常までもが浮かんでくるようだ。彼は日本にも取材に訪れ、工場の行員たちの姿を写し取っていったのだ。

写真を撮り、現像するにも時間は掛かる。そして、私たちがその作品を観る時も時間をかけて観ることになる。写真展では展示室を移動しつつ、作品を鑑賞することになる。
それは写真集を観る時にも言える。特に、エドワード・ルシェの「サンセット・ストリップのすべての建物」は時間を要するだろう。通り沿いにある建物を全て写し、それを巻物のように一枚に繋げた写真集なのだから。通り沿いを歩いて、いや、車に乗って走りながら車窓を眺めている感じだ。静止した写真なのに、流れる景色のように見えてくる。


なお、一部作品は写真撮影OKとのこと。川内倫子さんの作品もOKでした。
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★ 感想

フェリーチェ・ベアトや、ウジェーヌ・アジェの作品はわかりやすい。長時間露光が必要だったため、道を歩く人々はモヤモヤとした光の影としてしか写っていない。そこに、人々の生活・日常がふっと浮き出ている気がする。確かに、写真は時間をも写し取っているのかもしれない。
それは、現代の写真作品でも同じなようだ。森山大道の作品や緑川洋一の「ほたるの乱舞」も、被写体の動きが写し出されている。
もちろん、写真はある一瞬を写し取ったものなのだから、そこに時間の流れ・幅を感じるというのは、多分に見る側の意識によるものなのだろう。なるほど、写真とは、見る側の頭の中でのイメージ再構成という過程を伴った、写真家と鑑賞者との共同行為ということのようです。そんなことが思い起こされます、今回の企画展は。

アウグスト・ザンダーの「20世紀の人間」シリーズは、農夫や医師、ケーキ職人などを肖像画のように写しているだけなのだが、その風貌・身なり、そして表情が、まさに彼ら・彼女らの生きてきたこれまでの人生を物語っているように感じられる。ケーキ職人は、彼のことを”パティシエ”と呼ぶにはなんとなく抵抗がある雰囲気なのだ。警察官の髭はまさに絵に描いたよう。とはいえ、単なるプロトタイプではなく、一人ひとりの個性も持ち合わせている。
人生を見透かされているようでもあり、写真って怖い存在なのかもしれない。

本企画展は東京都写真美術館の収蔵品からチョイスされて構成されている。収蔵品の数は35,000点以上らしいが、とはいえ、うまいこと”それっぽい”作品を選んでくるものだ。まあ、それがキュレーターの技なのだろうけど、いつもながら感心してしまう。何度も同じ作品が使われているのだが、それでもその場その場で意味合いが異なって、違った印象を与えてくれる。キュレーターってのは、よっぽど上手なシナリオライターなのか、それとも屁理屈をこねてパッチワークを作る人なのか、いずれにせよ恐れ入ったものだ。

ということで、今回も楽しませてもらいました。

★ 写真展情報

「TOPコレクション イメージを読む 写真の時間」展は下記の通り、開催中。
  • 会期 : 2019/8/10(Sat) - 11/4(Mon)
  • 開館時間 : 10:00 - 18:00(木曜日、金曜日は20:00まで))
  • 休館日: 月曜日
  • 料金 : 一般500円 学生 400円 中高生・65歳以上 250円 小学生以下および都内在住・在学の中学生は無料
  • 公式サイト : 写真の時間
  • 図録 : 2,100円(税別)








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「士 サムライ―天下太平を支えた人びと―」展 [美術 : 美術展、写真展紹介]

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江戸東京博物館で開催中の「士 サムライ―天下太平を支えた人びと―」展内覧会に行ってきました。
例によって特別な許可をいただいて写真撮影しています。通常は撮影禁止です。

★ 展示内容

公式サイトによると、
本展では、現代のサムライイメージの原点である江戸時代のサムライ=〝士〟の暮らしや仕事のありさまをご覧いただき、サムライのイメージを見直してみたいと思います。
徳川将軍の居所として、当時、世界有数の大都市であった江戸の風景の中で、サムライがいかに活動していたのか、絵画作品や古写真から浮き彫りにしていきます。また、有名無名を問わず、サムライの家に伝来した所用品の数々から、江戸時代の人びとが見聞きし親しんでいた生のサムライの生活をご覧いただきます。
とのこと。

戦国の世では戦うことが役割であったサムライたちも、江戸時代になるとその求められるものも変わっていく。そんな様子を本展ではほぼ年代順に、有名・無名の侍たちをピックアップすることで示している。
展示構成は以下の通り。
  • プロローグ ―都市のサムライ―
  • 第1章 士 変容 ―武人から役人へ―
  • 第2章 士 日常 ―実生活のあれこれ―
  • 第3章 士 非常 ―変事への対応―
  • 第4章 士 交流 ―諸芸修養と人材交流―
  • 第5章 士 一新 ―時代はかけめぐる―
  • エピローグ ―サムライ、新たな生き様―

「サムライ」と言っても、時代によってその性格は変わっていったし、ランクによっても大きく異なっていた。馬に乗って戦闘行ったサムライたちに対し、身分の低い“雑兵”たちは歩兵としてその補佐をしたり、荷物の運搬を任されたり、土木工事(砦を築く、塹壕を掘るなど)に従事した。そんな様子を“解説”した絵巻物が残されている。
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築城もまたサムライたちにとって重要な任務だった。工事全体を指揮する者、そして実際に資材を運び、組み立てる者。
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戦国の世においては、サムライたちは“軍団”として組織化されていて、その指揮権を明確化していた。またそれは実際の戦いにおける布陣の形の基本ともなっていた。「陣備図」はその“見取り図”だ。
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参勤交代制度によって多くの地方のサムライたちは、江戸で“単身赴任”の形で暮らすこととなる。そんな彼らの生活の様子が描かれた絵巻物がある。車座になって酒を酌み交わすその姿は微笑ましいものだ。藩主が新たな役職を得たために帰国時期が延びてしまい、やけ酒で暴れている、なんてシーンまである。サムライと言えども人の子。その辺りは何も変わらないようだ。
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一方で、幕末の頃のものだが、彼らを写した写真も残っている。イギリスのフェリーチェ・ベアトによって写されたものだ。その中ではきちっと身なりを正し、キリッとした姿で写っている。絵巻物の中の姿がOffだとすると、こちらはOnの状態。時代が下っても“サムライ”としてのアイデンティティーは変わらないということか。
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サムライ長屋で窮屈な暮らしをしている者もいれば、与力の地位にあった者のはなかなかの豪邸に住んでいたようだ。ある与力が屋敷を新築した時の見取り図が残っている。部屋数はいくつあるのだろうか。
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さらにその上の奉行ともなれば日常使っていたものも豪華。南町奉行でお馴染みの大岡忠相のもの。手前は毛抜き。お白洲で裁きを行う際、気合いを入れるためか(?)これで髭を抜いたのだそうだ。いやぁ、痛そう。。。。
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そして対するこちらは北町奉行だった遠山景元の肖像画など。そう、ご存じ“遠山の金さん”だ。
そんな金さん、痔を煩ってしまい、馬に乗ることも辛い状態になってしまったそう。座っているだけでも痛いでしょうから、乗馬はさすがに無理。ということで、「駕籠に乗って登城することの許可願い」(手前の手紙)が残っているのでした。実在の金さん、ちょっとイメージが違いますね。
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この辺りは“有名人”コーナー。教科書でも見たことのある人物(の肖像画)が並んでます。平賀源内さんもいますね。
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展示コーナーの真ん中に置かれた大砲。存在感あります。幕末のもので、実際に戦闘に使用された後、明治になってからは「午砲」として使われたもの。「午砲」とは昼の時刻を知らせるために空砲を撃った大砲のこと。江戸時代の時の鐘と同じく、明治時代には大砲が使用されていたのでした。一般には“ドン”とも呼ばれていたもの。
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サムライたちに「武士の鑑」として語り継がれたのが鳥居強右衛門(とりいすねえもん)。そして、彼をより有名にしたのが、この背旗に用いられた“肖像画”。平和な世となったとは言え、サムライたちは武芸を忘れた訳ではなく、先人の武勇伝に敬意を持ち、モチベーションとした。
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文久遣欧使節団のメンバーを写した大判の写真が残っている。その中にはかの福沢諭吉も通事(通訳兼外交官)として加わっていた。
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幕末の三舟(さんしゅう)と呼ばれた、幕末から明治時代初期にかけて活躍した幕臣である勝海舟、山岡鉄舟、高橋泥舟関連の品も展示。
海舟の号の元となった、佐久間象山宅に飾られていた額(「海舟書屋」とあります)なんてのも。
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江戸無血開城のために勝海舟が西郷隆盛へ談判したことは有名ですが、実はその前に江戸に向かって進軍してきた隆盛と直接対峙して説得を試みた人がいたのです。それが高橋泥舟。勝海舟の書状をこの入れ物に入れて西郷隆盛の元へと向かったのだそうです。
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明治の世を迎え、サムライもその役割を終えました。その後は、海外から日本へとやって来た欧米人が、半ば懐古趣味的にサムライの風俗に興味を持ったりもしたとのこと。こちらは、首から下だけが出来合いで、顔の部分だけ本人に似せて描かれた“お土産”用の肖像画。顔ハメ式の記念写真パネルのようなものですね。
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元サムライの中には新たな才能を開花していった人たちもいた。“維新の洋画家” 川村清雄もその一人。以前、江戸東京博物館でも企画展が催されたが(「「維新の洋画家 川村清雄」展 こんな洋画、初めて見ました!」を参照のこと)、それぞれに新しい世の中へと順応していったようだ。
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★ 感想

江戸時代のサムライたちの姿にスポットライトを当てた、江戸東京博物館ならではの企画展と言えるでしょう。テレビの時代劇で慣れ親しんだイメージとはちょっと(だいぶ?)異なった姿がそこにはありました。「武士は食わねど高楊枝」を二十四時間三百六十五日続けていくのはやはり無理だったのでしょう。素顔の彼らは、日々の生活を楽しみ、仕事に勤しみ、今の我々と変わらない生活を送っていたようです。
とは言え、世の中が大きく動いた、戦国時代の終わり、幕末には命を賭して戦った、まさに「もののふ」でもあった訳で、この企画展ではその両面を知ることができる形になっていました。

有名人所縁の品はやはり目を惹いちゃいますね。大岡越前や遠山の金さん、そして幕末の三舟は「おお、これが彼らの使っていたものなのか」と見入っちゃいました。
それにしても、金さんが“痔持ち”とは知らなかった。幕府首脳と対立することが多くて、苦労を重ねたという話は聞いていたが、プライベートでもこんな状態だったとは。上役との衝突によるストレスが原因だったんですかね。

鳥居強右衛門」の本を読んだところだったので、背旗の写し絵を見られたのは感激。命を投げ打って見方を守ったところをリスペクトされたのは分かるけど、この姿はなんともインパクトありすぎ。

そうそう。屏風絵にしろなんにしろ、細かい描写の作品が多いので、単眼鏡の持参をおすすめします。今回、持っていったのに、バッグに入れたままコインロッカーに入れちゃったので使わずじまいでした。失敗。

江戸東京博物館は、私が良く行く東京都写真美術館と同様に、図書館(図書室)を併設しています。今回も企画展に合わせた、関連図書の紹介がされていました。展示を見て興味を持った人物や出来事などがあれば、図書室に立ち寄って参考書を読んでみるのも良さそうですね。一部はミュージアムショップでも販売していました。「レンズが撮らえたF.ベアトの幕末」なんて面白そう。

★ 美術展情報

「士 サムライ―天下太平を支えた人びと―」展は下記の通り、開催中。






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「住友財団修復助成30年記念 文化財よ、永遠に」展 : 文化財修復って、やっぱり大変だなぁ [美術 : 美術展、写真展紹介]

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泉屋博古館分館で開催中の「住友財団修復助成30年記念 文化財よ、永遠に」展内覧会に参加してきました。
例によって特別な許可をいただいて写真撮影しています。

★ 展示内容

公式サイトの説明によると、
公益財団法人住友財団は、これまでに1000件を超える国内外の文化財修復事業に対し助成を行い、2021年には創立30周年を迎えます。
東京の泉屋博古館分館では、伝統の技術と最新の科学によって近年修理された国宝や重文を含む絵画や工芸品約50点を展示し(途中展示替あり)、美を守る文化財修復の最前線を紹介します。修理によって新たに分かった創作技法や蘇った文化財の素顔に出会える絶好の機会となるはずです。
とのこと。今回の企画展は普段と違って、最近、修復を終えたばかりの作品を、その修復の様子も併せて展示しようという企画になっています。各作品の横に、修復前の状態や、修復の手順が分かるパネルも展示されていて、「こんなに酷かったのがここまできれいになったのか!」と納得できるようになってました。
光も当たらず、空気にも触れさせない状態で保管すればもっと持つのでしょうが、それでは“宝の持ち腐れ”。人に見てもらってこその作品。そうなると、どんな作品でも百年から数百年に一度は修復が必要になります。過去の修復では逆に作品を傷めてしまう結果になることもあり、それらも含めての修復が為されているのでした。

以下、学芸員さんの解説も折り込みつつ、ご紹介。
展示構成は、対象と年代別になっていて、以下の通り。
  • Ⅰ 中世の仏画
  • Ⅱ 中世の巻物
  • Ⅲ  中国朝鮮の絵画と 室町水墨
  • Ⅳ 近世日本の絵画と 工芸
  • Ⅴ 近代日本の絵画/li>

宗教上の理由によって、「中世の仏画」コーナーは撮影禁止でした。ただし、図録にはしっかりと写真が載っていますので、良ければそちらを参考にしてください。
ここではまず、掛け軸になっている仏画の修復を学ぶことができます。そのためにはまず、“掛け軸の構造”を知らねばならないと言うことで、詳細な説明が描かれたパネルがありました。

掛け軸は、絵の描かれている部分「本紙」の裏に、強化のために「肌裏紙(はだうらがみ)」、「増裏紙(ましうらがみ)」、「中裏紙(なかうらがみ)」、「総裏紙(そううらがみ)」と貼られています。なんと、五層構造になっていたんですね。「本紙」は、紙の他に絹が使われることも多いとのこと。
巻物でも似たような形で強化が為されています。でも、強化策のための多層構造なんですが、掛け軸にしろ巻物にしろ、収納時はクルクルと巻かれる訳で、巻いたり開いたりしているうちにこの層がズレていってしまうのでした。それが皺になってしまい、表から見ても線が入ったようになってしまいます。これを「横折れ」と呼んでいるそうです。また、ズレた部分の絵の具が剥離したり、酷いと破れてしまったりしちゃうのでした。
さらに、カビが生えたり、虫に食われたりと、傷み方は一様ではありません。修復の基本は、まずはこの多層構造になっている各層の紙(絹)を剥がすこと。そして破損した部分を直していきます。絹にしろ、紙にしろ、周りのオリジナルの素材にできるだけ合わせるため、全てが特注。絹も、糸と糸の感覚を同じにすべく、織り方のピッチを合わせて製作。ものすごい手間がかかってます。
なんやかやで、一日に修復できるのは良くて20cm四方程度。一つの作品だと数ヶ月から数年を要する大仕事です。しかも、全体の調子を合わせるため、基本は一人ないし二人で担当。いやぁ、根気なんて言葉じゃ表せられないほどの作業ですね。

「不動明王像」は横折れが酷く、特に大事な顔の部分が酷い状態に。さらには、過去の横折れ対策の修復(細く切った紙を皺に沿って貼っていく)によって歪み・ズレが増幅した部分もあり、全体解体後に各層のズレを直していく作業が施された。
これによって、鎌倉時代(十三世紀)の作品が蘇ったのでした。ギョロリとした目が特徴の不動明王ですが、修復後の顔は意外と穏やか。仏敵を威嚇するというよりは、優しく信者を守ってくれている感じがします。

中世の巻物では、平家納経などがよく知られていますが、経典の巻物が展示されていました。紺紙に金銀を混ぜた墨で書かれた経典は見事。
この経典ですが、なぜか普通よりも傷みが早いのだとか。その原因が今回の修復で明らかになりました。通常は金銀を墨に混ぜて文字が書かれる(罫線が引かれる)のですが、この経典では真鍮(銅と亜鉛の合金)も使われていました。金銀よりも滑らかなので、扱いやすかったのでしょう。でも、そのせいで劣化が早まってしまう結果に。今回の修復のあとも百年を待たずしてまた修復が必要になると予想されています。なので、きれいな状態で観られるのは今がチャンス!なのでした。

絵画作品では、染みや汚れ、カビ、虫食いなどによる劣化の修復が為されています。吸水性のいい和紙の上に作品を置き、水をかけたのちに上から風を当て、水分とともに汚れを裏側に押し出す形で清掃するそうです。汚れは水分とともに和紙に吸収される仕組み。
カビは、燻蒸した後、刷毛できれいに落としていきます。その際、胞子が飛び散ってしまい、そのままだとまたカビが生えてきてしまうので、注意深く吸引しながらの作業になるそうです。
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修復過程の丁寧な解説があります。
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この巻物、円山応挙が京都から大阪へと淀川を下りながら描いた(スケッチした)作品だそうで、全長は十六メートル。本紙には絹が使われていて、紙と違って継ぎ目のない一枚の状態。美しく、長閑な川岸の景色が続いています。
それにしてもこんなに長いと修理も大変。数年を要したそうです。
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江戸時代(十七~十八世紀)の「秋草図」は屏風絵。修理の際に、製作時の(屏風としての)補強材に使われた古紙が発見されていて、中には文字の書かれたものもあったそうです。そこに「寛文」の年号が書かれていて、製作年代を特定する手がかりになったとか。修復時にはこのような“新”発見も数多くあるようです。
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こちらは桃山時代(十六~十七世紀)の螺鈿の作品「葡萄蒔絵螺鈿聖餅箱」。
修理では、剥離した貝殻片を貼り直したり、傷を修復したりの作業が行われました。また、CTスキャンによる内部構造の把握も行われ、全体の造りを把握した後に修理がされています。
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泉屋博古館分館 生誕140年記念特別展 「木島櫻谷」:カワイイ動物画の元祖かも?!」で紹介した、木島櫻谷(このしまおうこく)の「かりくら」も最後にドーンと展示されていました。前回展示の時も「修復を終えたばかりの作品」と紹介されていましたね。
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★ 感想

修復では、オリジナルに近づけるために、補強のための絹にわざと電子線を当てて劣化させ、同じくらいの“古さ”にして使用するのだとか。聞く話全てが「こりゃぁ、大変だ」「どんだけ手間がかかるんだ?!」と驚くものばかり。美術品修復って大変な仕事ですねぇ。アバウトな性格の私には絶対に無理。
そんな根気強い修復作業のお蔭で、こうして美しい美術品が鑑賞できている訳で、感謝感謝です。住友財団の修復チームは世界中で活動をしていて、今回展示されている日本の作品ばかりではなく、世界各地で同様に修復作業をしているそうで、その活動自体が「世界遺産」に認定されても良いくらい。いや、“遺産”だと故人のようになってしまうから「人間国宝」、いやいや「人間世界宝」(言いにくい・・・)ですね。

どの作品も修復前とあとでは本当に違っています。その辺りをじっくり観て欲しい展示になってますね。それを見たら感心すること間違いなしです。
また、修理を通して作品製作を追体験する形にもなるので、どうやってこの作品が描かれたのかも分かるようで、その辺りの話も楽しみの一つ。例えば、絵の具を表面ではなく、(絹製の)本紙の裏側に塗ると、ソフトタッチの表現ができるとか。昔の人も色々と工夫していたんですな。

今回の企画展、単眼鏡は必須かも知れません。普通に肉眼で見ただけでは何処が修復された部分なのかは全く分からなかった。じっくりと観察してみてくださいな。
トーハクなど、四館での共同(連携?)開催の本展。美術品修復を学ぶに良い機会となってます。これは要チェックですね。私も、九州、京都は厳しいけど、トーハクは観に行きたいな。

★ 美術展情報

「住友財団修復助成30年記念 文化財よ、永遠に」展は下記の通り、開催中。






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