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「華氏119」 アメリカンドリームの終焉と独裁の始まりなのか [映画の感想]

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映画配給会社ギャガが運営する動画配信サイト【青山シアター】のオンライン試写会で『華氏119』を観ました。

★ あらすじ

2011年の11/9、世界中が驚き、あっけにとられ、呆然とした。ドナルド・トランプが大統領選で勝利宣言した日だ。得票数でも支持率でもヒラリー・クリントンが上回っていたのだが、アメリカ大統領選の選挙人制度によってこの不思議な(?)結果がもたらされてしまったのだ。
当選してからも人々は、「無能が明らかになり、すぐに罷免される」と当初は思っていた。だが、トランプ大統領はツイッター炎上上等(!)、虚言暴言を繰り返し、スキャンダルをまき散らし続けている。
だが、対する民主党の政治家たち(クリントン夫妻、バラク・オバマ前大統領などなど)もそれぞれにスキャンダルや不正を暴かれている。

国レベルで起きた“異変”の元はアメリカの地方で既に“炎上”していた。ミシガン州フリント市では水道水が高濃度の鉛で汚染されて健康被害まで確認される。だが、市当局はそれを否定し、子供たちの健康診断の結果を改竄するまでして隠蔽を図っていたのだ。当時の大統領だったバラク・オバマは非常事態宣言まで発動したのだが、本質的な解決をするまでに至らなかった。
フリント市はアフリカ系、ヒスパニック系の市民が過半数を占め、全米一の貧困地域と言われているところ。この問題は人種差別とも絡んでいる。また、貧困層の切り捨てという格差社会の問題でもある。

アメリカの住民は個人として立ち上がり、声を出し始める。汚染水道の問題を糾弾したり、全国規模で教師の賃金水準引き上げを求めてストを起こしたり、高校生たちが学校内の銃乱射事件をきっかけに銃廃絶運動を立ち上げた。

マイケル・ムーアは警告する。「誰がやっても同じだ、自分たちが何を言っても無駄だ」と人々が諦めた時に“独裁者”が出現するのだ、と。彼は明確にアピールする。ドナルド・トランプ大統領は、あのアドルフ・ヒトラーと同じだ、と。今、行動を起こさないと世界はあの時代へと逆戻りするのだ、と。

★ キャスト&スタッフ

  • 出演 : ドナルド・トランプ, ヒラリー・クリントン, バラク・オバマ, マイケル・ムーア
  • 監督 : マイケル・ムーア
  • 脚本 : マイケル・ムーア

★ 感想

いやぁ、マイクロプラスチック監督のやり方はストレート。トランプ大統領は現代のヒトラーだと言い切っちゃっているんですから、かなり過激。“人類の敵”だと言っているようなもんですからね。
確かに人種差別発言を繰り返しているし、本作の中でも、自分の集会に参加していた黒人の人々を追い出している場面が出てくる。バスに乗っていた中国人が、中国人と言うだけでどつかれる。日本でも最近、ヘイトスピーチが問題となっているが、“本場”のアメリカはこんなにも酷いのかと驚かされる。なにせ、「国に帰って仕事しろ!」と大統領自らが叫んでいるんだから。

そしてその先にある格差・貧困の問題。街によってこんなに差があるのか、こちらも驚かされた。日頃はニューヨークやらシリコンバレーやらのニュースばかりが流れてくるから、アメリカのこんな側面は知らなかったことばかり。これまた日本も、地方都市のシャッター商店街などが思い浮かぶが、アメリカの方は住民の家がもうボロボロ。

人々の問題意識や意見、傾向に関する情報を調査しているPew Research Center | Nonpartisan, non-advocacy public opinion polling and demographic researchの最近のレポートに「Many Latinos Blame Trump Administration for Worsening Situation of Hispanics」というのがあった。ヒスパニック系米国人の47%が「生活が悪くなった」と答えている。「良くなった」は15%だ。

元々、格差はあっただろう。それがトランプ大統領の登場によって加速されたようだ。マイケル・ムーア監督はそれを“ファシズム”の再来として糾弾する。そして、人々に対して声を上げるように訴える。それ自体、相変わらずの過激さだが、なにせ相手にしているのがトランプ大統領。過激さでは良い勝負という感じ。
プロパガンダ映画って、もうちょっと“オブラートに包む”ような描き方が多い気がする。後ろめたさがあるのかどうか、バレないと思っているのか分からないが、そんな作品が多い。でも、ここまでストレートな主義主張は確かに分かり易くて良い。その主張に対して賛成・反対どちらにせよ、観る側もはっきりした反応が採り易いから。

人口減と高齢化の進む日本でもこれからは移民受け入れが本格化するだろうから、他人事に非ず。何もしないでズルズル行くと、こんな未来が待っていて、過激な“指導者”が日本にも現れるかも知れない。そうならないためにもこの映画を観ておくべきでしょう。

★ 公開情報




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「ザ・サークル」 SNSでつながることの功罪。これは社会派映画?いや、近未来SF作品か? [映画の感想]

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東洋経済オンライン独占試写会に当選して観てきました。

★ あらすじ

サークル社は巨大SNSを運営する企業。世界中にユーザーを持ち、大きな政治力も持ち始めている。トム・ハンクス演じるカリスマ経営者は、全ての人がサークル社のSNSで繋がり、全てを包み隠さずシェアすることが世界平和を持たす、と社員を前に持論を展開する。そして、その方針の下、サービスを拡充していく。そんなサークル社の新製品・新サービスが「シーチェンジ」。指先サイズのカメラを世界中にばらまき、ユーザーの身体にも貼り付け、全てのシーンを全世界に配信できるというもの。これによって隠し事はできなくなる。

エマ・ワトソン演じる主人公は、コールセンターで派遣として働いていた。一日中、クレームの電話に対して謝り、なだめすかすのが仕事。そろそろ嫌になっていた時、サークル社で働く友人から声をかけられ、転職することになったのだ。
サークル社のキャンパスは広大。社員はジョギングしたり、ヨガをやったり、楽器を演奏したりでとても自由な雰囲気だ。まさにシリコンバレーの会社だ。
彼女はまたもコールセンターの仕事をすることになる。だが、それはサークル社が提供するSNSを通してユーザーと会話するもので、一回一回、ポイントが付く。丸でゲームのようだ。彼女はすぐに慣れ、新入社員としては好成績を示していた。
そんな彼女がある事件をきっかけに、経営陣の目に留まり、新サービス「シーチェンジ」を使った実験プロジェクトのモデルとなったのだ。かくして彼女は24時間、私生活も含めて全てをSNS上でシェア。他のユーザーとの“交流”をしていくこととなった。彼女はネット上で瞬く間にアイドル的な人気となり、何千万人というユーザーが彼女の生活を“覗き見”し、チャットする。

経営陣たちはこの「シーチェンジ」を使って大きな野望を果たそうとしていた。彼女もまた大胆なアイデアを提言していく。ここに来て、サークル社は国家をも動かす存在となっていく。そして彼女はその最先端でサークル社のアイコンとして振る舞っていくのだった。

★ キャスト&スタッフ

  • 出演 : Emma Watson, Tom Hanks, Ellar Coltrane, Glenne Headly, Bill Paxton, Karen Gillan, John Boyega
  • 監督 : James Ponsoldt
  • 脚本 : James Ponsoldt, Dave Eggers
  • 原作 : Dave Eggers

★ 感想

以下、ネタバレありです。

トム・ハンクス演じるサークル社のCEOが“いかにも”って感じ。舞台で社員を前にスピーチする時、マグカップにコーヒーを淹れたのをもってきたり、ジーパンにポロシャツだったり。なんかどこかで観たことある姿だなぁ、と思わせてくれる。
方やエマ・ワトソン演じる主人公は、派遣の仕事にあくせくしていたのに、いきなり世界中の注目を浴びる存在となる。まさにアメリカン・ドリームだ。
どちらも、いかにもアメリカ人が好きそうな話だが、少々ステレオタイプ過ぎのような気がする。さらには、実はカリスマCEOは会社を大きくする・権力を得ることが目的で、世界を繋げるなんてのは方便だったという結論。これも、宗教がかっていて何を考えているか分からないIT企業の創始者たちを、自分の想像の付く世界に当てはめることで納得したかったのかな、ということなのだろうと思ってしまう。要は、話の展開が読めちゃうパターンだった。

でも、話はシンプルですが、その分、素直に楽しめました。ジョージ・オーウェルの「1984」のような管理社会が、SNSが発展した先にあるような気がしてきます。五年、十年前だったら、この映画の話もSF世界の物語だったかも知れないけど、今だと明日にでも実現しそう。今だって監視カメラは街のあちらこちらに設置されているし、スマートフォンを持ってどこでも写真を撮る人(私もその一人ですが・・・)も一杯。これらがネットで繋がったら、まさにこの映画の世界の出来上がり。実は、かなり怖い話だったのかも。

ネットでSNSをやっている人も、そうでない人も楽しめそう。おすすめの佳作です。

★ 公開情報


★ 原作本


"The Circle"
Omni7



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「あさひなぐ」 青春映画の王道。なぎなたの試合シーンは迫力・緊迫感あり。素直に楽しめます [映画の感想]

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★ あらすじ

中学校の時は美術部に所属していた主人公の東島旭は、高校に入学してなぜか“薙刀(なぎなた)部”に入部してしまう。登校中のトラブルから彼女を助けてくれたのが、薙刀部のエースで、先輩の宮地真春だったという偶然と、(新)部長の野上えりの巧みな勧誘文句にコロリとなってしまったのだ。
「未経験者でも問題なく、練習もそれほどキツくない」はずだったのに、同じ新入部員の八十村将子、紺野さくらとともに、いきなり過酷な稽古を課せられたのだった。東島旭はもうヘロヘロ。
それでも何とかやめずに頑張り、インターハイ予選を迎える。ここでは新入部員達は見学・応援のみ。最後の試合となる三年生達と、エースの宮地真春が出場。だが、あと一勝という時に当たった対戦相手の高校にはものすごく強い一年生がいたのだった。それが一同寧々。その強さの前にインターハイ本戦出場はかなわなかったのだった。

体勢を立て直すべく、彼女たちは山寺での合宿に臨んだ。だが、その尼寺の尼僧・寿慶は薙刀のたつじんだった。そして、寿慶による地獄の特訓が待っていた。特に、東島旭は薙刀を握らせてももらえず、別メニューの特訓を課せられる。

そんな特訓をやり遂げた彼女たちだったが、またしても宿敵・一同寧々と対することになる。自信をなくし、連帯感も失ってしまう彼女たち。果たしてそこから立ち直り、次の勝利を勝ち取れるのか。

そこには、へなへなだった東島旭の姿はなく、「一同寧々なんてぶちのめす!」と叫ぶ彼女がいたのだ。

★ キャスト&スタッフ

  • 出演 : 西野七瀬、伊藤万理華、白石麻衣、松村沙友理、桜井玲香、富田望生、中村倫也、森永悠希、角替和枝、江口のりこ、中田花奈、斉藤優里、生田絵梨花、樋口柚子、緒方もも、宮田祐奈、松田佳央理、松本妃代、岡野真也、江田友梨亜、紀咲凪、北原帆夏
  • 監督 : 英勉
  • 脚本 : 英勉
  • 原作 : こざき亜衣

★ 感想

乃木坂46のファン、伊藤 万理華さんのファンなので観に行った訳ですが、そんなことを忘れて、見入ってしまいました。奇をてらうストーリーもなく、素直に観られます。娯楽映画として良くできています。
ひ弱だった女の子が頑張って、そして強くなっていく姿。部員達の友情・絆・信頼。挑戦、挫折、そして再び立ち上がる姿。まさに王道のストーリー。でも、それが嫌みなく見られるのは、なぎなたの試合シーンの緊張感と、コミカルかつキュートな彼女たちのシーンとがいい感じで廻っているからでしょう。
それに、登場人物の一人ずつのキャラクターがはっきりとしていて、これも見易さの一因です。主人公はダメダメなひ弱さと、諦めない強さの二面性が分かり易い。エースの宮地真春は逆に、強さとともに実は打たれ弱かったところがあったり。あと、部長の野上えりは、自分を押し殺して仲間のために頑張る感じだったり。安心して(?)感情移入できるようになってます。

運動部で頑張っていた想い出のある人も、スポーツに全く縁のなかった私みたいな人も、この手の話は素直に楽しめますよ。あの頃、こんな風に頑張ったなぁと感傷に浸るも良し、こんな青春時代を送ってみたかったなぁと悔やむも良し。万人向けの作品です。


終演後、観客の女の子が「長刀の試合シーンが多すぎ」との感想を言ってるのが聞こえてきました。確かに、これは意見が分かれるかな。時代劇を見慣れていない世代にはそう感じるところもあるかも。
私は、殺陣のきれいさや迫力・緊迫感がいい感じで話を盛り上げていく、と思えました。が、如何せん、面を付けていると顔の表情が分かりにくくなり、感情移入がしづらくなることも否めません。その点は、息づかいを強調することでカバーしていて、これもいい雰囲気だと思えましたよ。


「アイズ」 :ホラーと言うより、ヒューマン・サイコ・ミステリー。切ない話に仕上がってます」の記事でも書きましたが、伊藤 万理華さんの演技は本当に自然。安心して観られます。普通に女優さんですね。まあ、それはデビュー当時の動画「ナイフ」を見れば、もうその時からそうだったんだなと思える訳ですが。


と言うことで、おすすめです、この一本。

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