「生誕100年 ユージン・スミス写真展」:写真が語るヒューマン・ドラマの説得力 [美術 : 美術展、写真展紹介]
東京都写真美術館で「生誕100年 ユージン・スミス写真展」を観てきました。
★ 展示内容
W.ユージン・スミス(1918-1978)は、従軍カメラマンとしてキャリアをスタートさせ、第二次大戦の沖縄戦などを取材しています。が、その地で重症を負い、数年、療養に専念することになります。回復後は一転、ヒューマン・ドキュメンタリー写真家として再スタート。その際に発表された、幼い子どもたちが刺激の暗闇から明るい場所へと向かっていく「楽園へのあゆみ The Walk to Paradise Garden」はあまりに有名ですね。公式サイトの説明によると、
本展覧会は、生誕100年を回顧するもので、スミス自身が生前にネガ、作品保管を寄託したアリゾナ大学クリエイティヴ写真センターによる協力のもと、同館所蔵の貴重なヴィンテージ・プリント作品を150点展示します。情報あふれる現代社会に生きる私たちにとって、ジャーナリズムの原点をいま一度見つめ直すきっかけになることでしょう。とのこと。
展示構成は以下の通りで、年代順+テーマ別。Lifeでの特集や、刊行された写真集ごとにまとまっている。また、併せてそれら作品が掲載されているLife誌や写真集なども展示されている。
- 初期作品
- 太平洋戦争
- カントリー・ドクター
- イギリス
- スペインの村
- 助産師モード
- 化学の君臨
- 季節農場労働
- 慈悲の人
- ピッツバーグ
- ロフトの暮らし
- 日立
- 水俣
まず始め、会場入り口に「楽園へのあゆみ The Walk to Paradise Garden」のポスターが飾られている。これだけは撮影OK。 #ユージン・スミス のハッシュタグを付けてSNSに投稿して、とのこと。
なお、本物(のプリント)ももちろん展示されています。
「太平洋戦争」では、投降する日本人の姿が写されています。掴まったら殺されると思い込まされていたからなのか、恐怖のあまりに表情を失った顔がその状況を語ってくれています。
「カントリー・ドクター」は戦後、田舎の医者の“日常”を追ったもの。雨の中をカバン一つ持って往診に向かう医師の姿。老人を診察し、死期が近いことをみて司祭に電話をする医師。お産を介助するも、母子共に死なせてしまったあと、呆然としながらお茶を飲む医師。子どもたちに囲まれながら、予防接種をする医師。一人で全てをこなし、その町の人々の喜びと悲しみに立ち会うその姿は、まさにヒューマン・ドラマです。胸打たれ、涙がこぼれそうになるくらいに心を揺さぶられるシリーズ。写真の持つ力を再認識できるでしょう。
「水俣」は、日本にゆかりの深いユージン・スミスが見た、水俣病の問題を取材した作品群。水俣湾の漁の様子から、チッソの廃液、そして住民集会や裁判の様子など、その全体像を捉え、示そうとしている。
★ 感想
改めて、写真の持つ力を感じさせる作品群でした。特に、「カントリー・ドクター」や「助産師モード」(“モード”は人名です)には一瞬でその世界に引きこまれてしまった感じ。映画を一本、ドラマをワンクール観たくらいの重み。寡黙なドクターはカメラを、ユージン・スミスを全く意識していない。そこまでの信頼関係を築くまでにはどんな過程があったのだろうか。その結果、あの表情を写すことができたのだから、その撮影姿勢に関してもただただ驚くばかり。あんな素の表情を撮れるなんて。お産で母子を死なせてしまった後のあの顔は何とも言えない。何時間、いや十数時間もの“格闘”の末、最悪の結果となってしまった。その虚脱感、疲労感、まだ後悔することもできない虚無感、そんなドラマがフラッシュバックのように見えてくる感じだ。あの表情が全てを語っている。
いやぁ、凄いです。
若い頃、日本人カメラマンと出会い、感銘を受けたのがきっかけでプロの道に進むようになったとか。従軍カメラマンとしても沖縄で撮影をしたりと、日本との関係も深いユージン・スミスさん。「日立」や「水俣」のシリーズでは興味本位ではない、暖かな視線を感じられました。現場に溶け込んで撮影していたんでしょうね、こちらも。
なんと言うか、「良いものを見た」というのがまとめの感想。感想を細かく語るのもおこがましい気がしちゃうほど感動。観るべきです、これは。
★ 写真展情報
「生誕100年 ユージン・スミス写真展」は下記の通り、開催中。- 会期 : 2017/11/25(Sat) - 2018/1/28(Sun)
- 開館時間 : 10:00 - 18:00
- 休館日: 月曜日
- 料金 : 一般1,000円 学生 800円 中高生・65歳以上 600円 小学生以下、都内在住・在学の中学生は無料
- 公式サイト : 生誕100年 ユージン・スミス写真展|株式会社クレヴィス
- 図録
この時期にはなかなか行けずに残念です。
by JUNKO (2017-12-28 19:59)
JUNKOさんへ:
うむ、残念。
図録は一般の書籍販売ルートでも購入できます。ご参考まで。
by ぶんじん (2017-12-29 10:45)
おはようございます。
今年一年ありがとうございました。
良いお年をお迎えください。
来年もよろしくお願いします。
by YUTAじい (2017-12-31 08:07)
今年一年ありがとうございました。
良いお年をお迎えください。
来年もよろしくお願いします。
by ぴーすけ君 (2017-12-31 10:46)
YUTAじいさん、ぴーすけ君さんへ:
こちらこそ!
by ぶんじん (2018-01-08 22:23)