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「ムーミン谷の仲間たち」 : 北欧の冬を知る彼らはみな、哲学者のようだ [読書 : 読んだ本の紹介]

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★あらすじ

スナフキンは南の故郷を出て、北を目指す。三月の終わり、ムーミン谷の蕎麦までやって来た。歌ができそうだった。そのしらべはもうすぐ出来上がりそうだ。だが、そんな時、小さな生き物のはい虫が彼の前に現れる。
はい虫はスナフキンに出会って興奮している。はい虫には名前がなかった。あまりに小さい生き物だったので、名前を付けてもらえなかったのだ。スナフキンは彼に名前を付けてあげた。すると、はい虫は彼の元を去って行ってしまった。残されたスナフキン。出来上がり書けていたいしらべはどこかに消えてしまっていた。


フィリフヨンカは、へムルから家を借りて独りで住んでいた。海のそば。彼女は大きな災難がやがてやってくるだろうことを感じ取っていた。だが、他の者たちはそんな災難がやってくることに全く気が付いていない。お茶に招待したガフサ夫人もそう。台風がやってくるとフィリフヨンカは思っているのに、ガフサ夫人は洗濯物を吹き飛ばした風のことしか関心がない。全くそんな災難がやってくるなんて思ってもいないのだった。急に嫌気がさし、お茶会はそこで打ち切りにしてしまった。
その夜、風は吹き始めた。嵐が本当にやってきたのだ。真夜中過ぎ、風速は秒速四十六メートルにもなっていた。フィリフヨンカの家の煙突が吹き飛ばされたのを皮切りに、嵐は彼女の家の中にまで入り込み、荒れ狂った。フィリフヨンカはこの世のおわりが来たことを感じたのだった。


ある日、おしゃまさんがムーミン家に一人の女の子を連れてきた。その子はおばさんに酷くいじめられたため、身体が透明になってしまい、人の目に見えなくなっていたのだった。
ムーミン家に引き取られたその女の子。彼女は自分の姿を取り戻せるのだろうか。ムーミン家の人びと(?)はその子に対してどのように接すればいいのだろうか。全てが何も見えないまま、その生活は始まった。

★基本データ&目次

作者トーベ・ヤンソン
発行元講談社(講談社文庫)
発行年2015(原作 1962)
訳者山室静

  • 春のしらべ
  • ぞっとする話
  • この世のおわりにおびえるフィリフヨンカ
  • 世界でいちばんさいごの竜
  • しずかなのがすきなヘムレンさん
  • 目に見えない子
  • ニョロニョロのひみつ
  • スニフとセドリックのこと
  • もみの木

★ 感想

ムーミンパパの親友であるヨクサルの息子がスナフキン。ちびのミィとは異父姉弟の関係。カルピスこども劇場でのムーミンに慣れ親しんだ私には未だにピンとこない“人間関係”だ。横溝正史の小説に出てくる家系図の如くに複雑とも言える。
まあ、そんなことは関係なく、ムーミン谷の仲間たちはユニークで、そして魅力的な連中ばかりだ。「スウェーデン出張 : 冬の北欧は本当に夜が長かった」の記事で紹介したように、ちょっとだけだけど“北欧の冬”を体験した私としては、ムーミン谷の連中の性格がなんとなく分かる気がする(ちょっとだけだけど)。長い長い夜を過ごしていると、人は誰もが哲学者になってしまうのだろう。ものを集めるのに執着している。だが、急にそれが無意味なことだと気づく。人生に絶望して、色をなくすどころか透明になってしまう。子どもたちのために遊園地を築き上げる。そんなこともあるでしょう、きっと。暗く長い冬と、そのあとの春の喜び。人生、山あり谷ありなのだ。ムーミン谷の仲間たちはそんなことを教えてくれる気がする。

ニョロニョロは本当に魅力的な生き物だ。ムーミンパパじゃなくとも、彼らに付いていってその生態を知りたいと思うだろう。誰からも気味悪がられているニョロニョロたち。表情もなく、何を考えているのか、どんな気持ちでいるかも計り知れない存在。彼らは何の象徴なのだろうか。わかり合えない存在、異質のメンタリティ。自分たちとは違う集団。だが、自分たちのそばに暮らしている。
“民族”が入り交じり、入れ替わり、共存しているヨーロッパの国々。そこではいつも人の流れが絶えない。今も“難民”が問題視されている。
ニョロニョロたちにも彼らの“文化”があった。彼らは嵐を求め、海に出るのだ。そして、雷に打たれ、電気を帯びる。それに何の意味があるのか理解できないが、それでも彼らには意味のある行為なのだ。それをムーミンパパは理解した。異文化コミュニケーションとはそういうものなのだろうか。

やっぱりムーミンの話は深い。

● 電子書籍版




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コメント 4

TaekoLovesParis

冬の北欧を経験なさったぶんじんさんだから、そして人生をいろいろ経験なさってるから、ムーミンをさらっと読まずに、いろいろと思いを巡らし、、★感想に、なるほど、と思いました。
by TaekoLovesParis (2016-03-15 22:40) 

カエル

ムーミンってはまるとどっぷり浸かってる友人多くいます。私も好きですが深くなかったなぁと。大人になってから読むと面白そうですね。
by カエル (2016-03-16 12:40) 

JUNKO

ムーミンのお話は大好きです。孫にも絶対読み聞かせようと思っています。
by JUNKO (2016-03-16 21:29) 

ぶんじん

TaekoLovesParisさんへ:
北欧、次回は夏に行って見たいものです。

カエルさんへ:
私も二度目なのですが、確かに印象がずいぶんと違ってました。再読、おすすめします。

JUNKOさんへ:
読み聞かせ、本好きになるきっかけでもあるし、是非。
by ぶんじん (2016-03-17 09:05) 

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