SSブログ

「アルフレッド・シスレー展-印象派、空と水辺の風景画家-」at 練馬区立美術館:セーヌの流れは絶えずして [美術 : 美術展、写真展紹介]

2015-10-03 13.49.jpg

開館30周年記念「アルフレッド・シスレー展-印象派、空と水辺の風景画家-」at 練馬区立美術館 [広告]」で事前告知した美術展に、WindamArtPRさんから招待状をいただいて、観に行ってきました。

★ 展示内容

国内の各美術館で所蔵されているシスレーの作品を中心に、シスレーに纏わる作品も絡め、展示が構成されている。
  • 第1章 印象派の風景画家、シスレー
  • 第2章 シスレーが描いた水面・セーヌ川とその支流 ―河川工学的アプローチ―
  • 第3章 シスレーの地を訪ねた日本人画家
  • 荒川のコーナー:荒川の治水の歴史や、東京名所絵に描かれた河川の紹介
と、絵画はもちろんのこと、その裏に隠れた河川(セーヌ川)治水の歴史を併せて展示することにより、シスレーたちが描いた風景がいかにできていったかを知ることができるというもの。美術展でこのような展示は初めてなのではないかと思われる。

第1章は、パリやその郊外を描いた作品が二十点、並んでいる。木々の緑や空の蒼さ、そして光り揺らめく川面はまさに印象派。季節や、朝夕でその光りの具合も変わっている。「ロワン河畔、朝」では、朝靄なのだろうか、その景色は全体的に白く、霞んでいる。隣に展示されている「葦の川辺―夕日」では、暖かさを感じさせる柔らかな陽射しに包まれた風景が広がっていた。
かと思えば、「サン=クルー近くのセーヌ川、増水」では、洪水であふれかえったセーヌ川の様子を描いている。岸辺にあったカフェ・コンセール(だったかな? 名前の通り、コンサートも行われる、ライブハウスの走り)も流されてしまった氾濫だった。シスレーはその様子も描いていて、水に浸かりながら作業をする人の姿も入れるなど、洪水災害の様子をレポートするテレビの画面を見ているようだ。
そんな、非日常の様子もあるが、全体としては長閑な風景がそこには広がっていた。

第2章は、そんな長閑な風景が実は河川治水テクノロジーのお蔭でできたものだったことを解説してくれている。
日本の河川ほどではないにしろ、ゆったりと流れるヨーロッパの河川の中でもセーヌ川は急流で知られていた。鉄道が登場する前の運送の主役は船。でも、川の流れに乗って上流から下流へは荷物を運べるものの、荷物を積んで川を遡ることはできなかった。それが十九世紀に入り、川の流れを水門を設けることによってコントロールするようになる。それまで上流から下流へと勾配に沿って流れるに任されていたものが、「階段状」にすることによって、その「一段」ごとに流れをさらに緩やかにし、水面の高さも一定に保てるようになった。こうなると渇水で船が航行できなくなることも減り、また上流へと曳舟によって遡ることもできるようになった。
流れが緩やかになり、川面は「鏡」と呼ばれるほどに静かな、安定したものになる。そう。周りの景色や空をそこに写すようになった川面は、光を求める印象派の画家たちにとって格好の被写体となったのだ。

第3章では、印象派の絵画の模写や、シスレーが暮らし、描いたモレーを訪れた日本の画家たちによる作品が並んでいる。日本の画家による印象派の絵画ってほとんど観たことがなかったんですが、やはり影響は受けていて、「セザンヌっぽいかな」とか「これはモネの影響か?」などという作品が目に付いた。
なお、他の展示は二階だが、第3章は一階の展示室になっているのでお見逃し無く。

荒川の治水のコーナーは、荒川下流河川事務所 | 国土交通省 関東地方整備局による治水活動の歴史や現在を紹介している。荒川と隅田川ってこういう関係にあるのかをここで初めて知ったかも(昔、聞いたことはあったかも知れないけど、すっかり忘れてた)。

★ 感想

シスレーの作品をこれだけまとめて観たのは初めてだった。なるほど、印象派です。青空の下で木々の緑が映えている風景はもちろんのこと、洪水を描いたものでさえキラキラしている気がした。
他の印象派の画家たちが徐々に画風を変えていったのに対し、シスレーは終始、“印象派”を貫いていた。そのために「発展性がない」と評価されるに至ってしまったとか。これは難しいところですね。確かに進歩は大事だけど、一つの技を極める職人気質的なものにも価値はあるだろうし。今回展示されている二十点の作品を観ていって、「なるほど、どれもいい絵だ」と思うか「似たようなものばかりで飽きてしまった」となるか、どちらの感想を持つ人が多いかで“現在の評価”が分かるだろう。あなたはどちら?

セーヌ川をはじめ、ヨーロッパの河川というと流れているのかどうかも分からないような印象が強かったが、それも治水による成果だった訳ですね。勉強になりました。「治水治国(治水は治国なり)」という言葉がありますが、洋の東西を問わず、河川コントロールは重要な国家事業だったというのを再認識させられます。でも、そんな難しい話だけではなく、緩やかになった流れのお蔭で都市や農村の風景画に新たな印象を与えるようになった河川がこれらの事業のお蔭だったというのは話のネタとしても使えるでしょう。

ということで、普段の美術展とは違った点でも勉強になったのでありました。面白かった。とりあえず、「パリが沈んだ日―セーヌ川の洪水史」も読んでみるかな。
2015-10-03 13.51.jpg

★ 美術展情報

「アルフレッド・シスレー」展は下記の通り、開催予定。



nice!(15)  コメント(2)  トラックバック(0) 
共通テーマ:アート

nice! 15

コメント 2

JUNKO

これは見に行けそうです。ご紹介ありがとうございました。
by JUNKO (2015-10-04 20:05) 

ぶんじん

JUNKOさんへ:
学芸員によるギャラリートークや、各種講演会も数多く予定されているので、都合が合えばどうぞ。
by ぶんじん (2015-10-04 22:44) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。