「満鉄調査部」(講談社学術文庫) : 敵を知り、己を知るのが大事なのは国家も同じと言うことか [読書 : 読んだ本の紹介]
★あらすじ
満鉄調査部は100人前後の規模で始まった。最初は経済調査・旧慣調査・ロシア調査の三班に別れ、活動していた。旧慣調査とは、家族や土地の利用慣行、民俗儀礼などの調査のこと。鉄道ビジネスにおいては土地買収等をすすめるために必要となる。旧慣調査班は最初、三人しか在籍していなかったが、満州の土地現行法を調査して「満州旧慣調査報告書」全九巻を発行している。調査部が拡大する最初のきっかけはロシア革命と、それに続く社会主義国家ソ連の誕生だった。日本政府も革命の進展に強い関心を持っていて、シベリアへの領土拡大を目指すためにはより深い理解(調査)が必要となっていった。そのため、ソ連調査が満鉄調査部の至上命令となり、国策会社の一つだったのが、国家自体の存立を巡る重要問題になっていった。
また、ロシア革命は中国のナショナリズムも刺激し、中国も新しい時代を迎えていた。辛亥革命、五・四運動の動きから中国国民党、中国共産党が結成される。軍閥抗争も中国統一を基底にした動きとなっていった。満鉄調査部はこの中国ナショナリズムにも調査の範囲を広げていき、北京に駐在事務所を置くまでになっていった。
第一次大戦後、満鉄の経営は拡大していく。新たな路線をいくつも建設し、朝鮮鉄道も任される。さらには水道・電気事業や大連汽船などを傘下に置き、満鉄はコンツェルン化していく。調査部もその役割を拡大し、満州の物産調査や新製品開発(開拓)も担っていく。
そして満州事変、満州国建国を経て、満鉄・満鉄調査部の役割もまた変わっていった。
★基本データ&目次
作者 | 小林英夫 |
発行元 | 講談社(講談社学術文庫) |
発行年 | 2015 |
- はじめに 「元祖シンクタンク」としての満鉄調査部
- 序章 満鉄調査部の誕生
- 第一章 調査期間とロシア革命
- 第二章 国益と社益の間で
- 第三章 満鉄調査部と日中戦争
- 第四章 満鉄調査部事件の真相
- 第五章 それぞれの戦後
- 補論 満鉄調査部と戦後の日本社会
★ 感想
シンクタンクって何をするところなの?っていう、基本的なところがよくわかっていなかったが、その元祖のような満鉄調査部の歴史を勉強すれば理解できるんじゃないかな、と思ったのがこの本を読んだきっかけ。また、石原莞爾の「最終戦総論」や「紫禁城の黄昏 (岩波文庫)」を読んだりして、一つの国家(国として認知されていない、かも知れないが)満州国を舞台にした壮大な“物語”に興味を持っていたからだ。なるほど、武力だけで占領していけば良いもんではなく、“土地買収”なども領土拡大(権益拡大)には必要なんだなと納得。そのための基礎調査は確かに重要だ。でも、明文化している法律だけを調べるならば公文書館や図書館に行けばいいのだろうが、この時代の中国で現地の“ルール”を把握するには大変だったろう。土地の長老のような人にヒアリングしたりしたのだろうか。残念ながらそこまで細かい話は本書では分からないが、苦労したんだろうなと想像に難くない。
しかし、そんな戦争の時代の真ん中にあり、さらには満州というその最前線の地にあって満鉄調査部(の一部)ではマルクス主義の研究がされていたり、そのイズムをベースにした調査がなされ、農民のための土地改革を進めようなんて主張もされていたと知り、なんとも尖っていた連中なんだなということも知る。
シンクタンクがみんなこんな感じかというともちろん違うだろうけど、でも、世の中を調査し、国を・会社を動かすアイデアを出すというのは基本的に同じなのだろう。そのためにはどうしても主義主張や依って立つ思想が必要なのかも知れない。うむ、勉強になりました。
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