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「生命の起源をさぐる―宇宙からよみとく生物進化」 : まだまだ分からないことだらけ、なのが分かりました [読書 : 読んだ本の紹介]

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★ 概要

日本宇宙生物科学会大会のシンポジウム「生命機能の起源をさぐる」の講演内容をリニューアルし、書き下ろしたのが本書。そんな訳で、生命起源を考えるに太陽系、さらには銀河の彼方の中性子星やビッグバンから話が始まる。星が生まれた時に、既に数々の物質がそこに含まれている。そして宇宙空間も実は色々な物質が飛び交っている。それらの物質から生命は"合成"されていった訳だが、アミノ酸までならば実験的にも"再現"可能。だが、そこから先の機能分子にはなかなかたどり着かない。RNAが作られねばならないのだが、その主要部品であるリボースを安定的に生成するパスが見いだせていないのだ。

細胞の始まりもこれまた謎。外界から"内部"を隔てつつも、自己複製・自己生成できる「膜」に覆われているのが細胞。そんな「膜」の仕組みがどのように生じたのか、これも答えの見つかっていない謎。
起源は謎だが、そうして「細胞」という形をとった生命が確立する。そこからはお馴染みの系統樹に描かれているような形で数々のバリエーションが生じてくる。最初の生命は熱水噴出孔の周辺で生まれた超好熱菌(の一種)だろうとの説があるが、そこからすべての生物種が分岐していったのだろうか。現生生物のDNAを調べることによって、系統樹を見直していく。それでも「根っこ」にいる起源の生物種はよくわからないのだ。ちなみに、存在するか否か分からない、すべての生命種の祖先は「コモノート」と名付けられている。コモノートは超好熱菌なのだろうか。

原核生物から真核生物への進化も、「生物進化最大のギャップ」と呼ばれている。原核生物の構造は比較的単純だ。それに比して真核生物は構成要素一つ一つが複雑で高機能。例えば、微小管やアクチンなどによる細胞骨格は、細胞の形をしなやかかつ大きく変形させることができ、アメーバーのような運動が可能となっている。鞭毛(べんもう)は、九本の二連微小管と二本の単体中心微小管で構成された複雑な器官だが、真核生物の誕生から程なくして獲得された(運動)機能だ。さらに、原核生物のDNAは環状なのに対して、真核生物のDNAは線状である。線状であるため、減数分裂が正確に行われ、性の起源となったと考えられる。

★ 目次

  • 序章 宇宙から生命をさぐる
  • 第1章 生命を生み出す有機物
    • 1 生命の起源は解明できるか
    • 2 アミノ酸から生きる機能分子をつくる
    • 3 生命をになうRNAのはじまり
    • 4 生命のはじまった場をもとめて
    • コラム1 隕石・宇宙塵・小惑星の探査
    • コラム2 DNAからタンパク質へ
  • 第2章 細胞のはじまり
    • 1 分子システムで生命らしさの謎に迫る
    • コラム3 PCR法
    • 2 熱水噴出孔は始原生命をはぐくむか
    • コラム4 地下深部生命起源説
    • 3 遺伝子情報をさかのぼり祖先の姿をさぐる
    • コラム5 生物を分類する
  • 第3章 ひろがる生命とその機能
    • 1 原核生物から真核生物への進化
    • 2 光合成と生物進化
    • 3 全球凍結の余波と多細胞生物繁栄のはじまり
    • 4 性の起源と多様な生命の進化
  • 終章 ふたたび宇宙へ

★ 感想

オパーリンの化学進化説を基盤とした考え方やその実験の話は色んなところで見聞きしていた。原始の地球では無機質から有機物が生じえる環境にあった。そして生命も程なくして誕生した、と。ところが、話はそんなに単純ではないことが本書を読んでよくわかった。非常にプリミティブな有機物は確かに自然現象として発生しうる。宇宙空間にも漂っていて、原始の地球に降り注いでいたかもしれない。だが、それはあくまで生命体の"材料"であって、そこからどのように生命が組み上げられていったかは諸説入り乱れていて決定打がないそうだ。
宇宙から生命(の素)が飛んできたとしても、発生の場所が変わるだけで「どうやって?」の問いは残る。

さらには、細胞という仕組みがどうやって生まれたのかもまだまだ謎。さらにさらに、原核生物が真核生物へと変わった(進化した)プロセスも全く分かっていない。もう謎ばかり。

進化の過程では、いわゆる「常識からかけ離れた」ことが起きるのもしばしばらしい。紹介された中で驚いたのは、「マラリア原虫はその昔、葉緑体を備えた"植物"だった」ということ。細胞内共生として葉緑体(光合成を行う能力を持った、他の生き物)を取り込んだのだが、その後の進化の過程で消滅していき、今は痕跡を残すのみ。光合成を体内で行うよりも(光と水と二酸化炭素さえあればエネルギーを生み出せるよりも)、寄生という生き方の方が進化戦略的に有利だったのだろうか。
雄・雌の性が後天的に(環境に応じて)変化したり、有性生殖と無性生殖とを繰り返す生活環を持っている生き物がいる。ヒトからみるとそれだけでも「常識外れ」だ。植物と動物の間を行ったり来たりする(した)生き物がいても不思議ではないのだろう。生命を考えるには、いかに常識・固定観念を捨て、柔らかく物事を捉えられるかが大事なようだ。

進化や生命化学の話は興味が尽きない。この本もそんなワンダーランドを紹介してくれる、おすすめの一冊だ。


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コメント 2

カエル

大変興味深いですね!
自分もある映画で人間は宇宙から出来ているということを説いていた作品に出会ってから、そんなこと考えたこともなかったんですよね。だから宇宙から生まれたから始まって自分も宇宙だというのもありなんですね。妙に納得です。
by カエル (2013-12-20 04:56) 

ぶんじん

カエルさんへ:
梵我一如ですね。自分のルーツを知りたい、自分が何者かを知りたいという根源的欲求が宗教にせよ、科学にせよ、その原動力となっているのでしょう。
by ぶんじん (2013-12-20 13:26) 

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