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「自然の鉛筆 技法と表現」東京都写真美術館友の会内覧会参加 プリント(印画紙)の歴史が学べます [美術 : 美術展、写真展紹介]

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恵比寿ガーデンプレイスにある東京都写真美術館の友の会内覧会に行ってきました。今回は写美収蔵品による「写真の技法」をテーマにしたコレクション展第二弾です。写真の印画紙(紙だけじゃないですが)の(技術の)歴史を紹介するというもの。三万点弱の収蔵品には”お宝”的な貴重品も多数あり、”一点もの”のオリジナルプリントも一杯。そんななかから百八十点を選んで展示してあります。

今回も、この展示を企画した学芸員の鈴木さんが直接、説明してくれました。どういう意図でその作品を(三万点弱の中から)選んだのか、本人の説明がやっぱり説得力ありますよね。
展示構成はプリント(技法)の歴史を順に追っていき、その進歩がよくわかるような形になっています。大きく三つのパートに分けられていて、各パートで様々な技法・技術が紹介されています。詳細は写美のサイトを見ていただくとして、大まかには以下のような感じでした。

第1章:紙の印画
ネガも紙を使ったカロタイプと呼ばれる技法が世界で最初。始めは輪郭が不鮮明で画質も粗く、さらにはすぐに退色してしまう欠点があった。それでも発明者のタルボットさんはこの技術の良さを世に問うため、写真集を作ってカロタイプの良さを訴えたのでした。その”世界で最初の写真集”の本物(六巻揃っているのは世界でも十セットのみ。日本では写美にしかない!)が展示されています。確かに退色がひどくて写真は不鮮明ですが、文章を読むと「(棚の陶磁器コレクションを写しておけば)財産目録になります。盗まれても裁判所にこの写真を示せば自分のものという証拠になります」なんてことが書かれてました。写真の(新しい)使い方を提案していたんですね、タルボットさんは。他にも、古書の中身を写したもの(コピーですよ、今でいう)などが示されています。
そしてなによりもネガ・ポジの技術は、ポジ(印画紙)を複数作ることができるのが大きな特徴。これによってこのような写真集の出版が可能になったし、”メディア”となりえる力を写真が持った訳です。
その後、鶏卵紙、プラチナ印画、ゼラチン・シルバー・プリントと、時代と共に技術も進歩し、写真(プリント)は商業的成功を収めていくのでした。

ゼラチン・シルバー・プリント、やっぱりきれいですね。学芸員の方がおっしゃっていましたが、ゼラチン・シルバー・プリントの作品は顔を近づけて観て欲しいとのこと。木々の葉っぱや、人物の肌などが繊細に表現されていているのがよくわかるそうです。あと、カロタイプは時間と共に退色しちゃいましたが、ゼラチン・シルバー・プリントはだんだんと”味が出てくる”とも。収蔵庫からたまに出して観てみると、「あれ?こんなにきれいな作品だったっけ?」と驚くことがあるんですって。赤みを帯びたあの色合いが、ワインと同じように熟成されていくんでしょうかね。

第2章:金属・ガラス印画
歴史的にはダゲレオタイプと呼ばれる金属板印画の方が先に登場し、上述の通りカロタイプよりも鮮明な画像だったので、ポートレート写真・肖像写真としてとても人気があった。その後、ガラス板による安価なアブロタイプや、さらに割れにくいティンタイプが出て、人気となる。
ただ、これらはどれもカメラで印画紙に直接撮像するため、一点もの。複製もできない。そのため、あくまでも個人的な用途に使われることが主流であり、ネガ・ポジの印画紙が普及するに従って消えていった。

第3章:カラー写真の展開
いくつかの失敗した技術のあと、最初に商業的に成功したのはオートクローム。値段が高くて露光時間も長く、さらには観る時に後ろから光を当てるビューワーを使わないと真っ黒で見えない、という欠点があったものの、カラー写真に対する人々の欲求が後押しした。
その後、コダックのダイトランスファー(色素転写方式印画)やポラロイド(拡散転写方式印画)などが出てきて、決定版としてチバガイギーのチバクローム(銀色素漂白方式印画)が出た。さらには廉価なコダックのタイプCプリント(発色現像方式印画)(いわゆる普通の印画紙。)によって一般にも広く普及した。


解説は一時間ほどでしたが、盛りだくさんの内容でとても勉強になりました。それぞれ名前は聞いたことがある印画技法ですが、こうやって順に並んで説明してくれると、その特徴や違いがよくわかります。

今回の展示ではタイプCプリントで終わってますが、少なくとも我が家の主流はインクジェット・プリント。世の中的にもそうなってきているんじゃないでしょうか。技術の歴史、これからどのようになっていくんでしょうね。そんなことも思わせてくれる展示でした。

ということで、とてもおすすめなのですが、そこそこ技術的な話なのでちょっと取っつきにくいかも。そんな方のために会期中の第二・第四金曜日16時から担当学芸員による展示解説(解説自体は無料。展示会観覧料のみでOK)があるそうです。都合が合えばこれを利用するのをおすすめします。詳細は写美のサイトを見てください。

会期     : 7/14(Sat) - 9/17(Mon)
開館時間  : 10:00 - 18:00  木・金曜日は20:00まで。入場は閉館三十分前まで
休館日   : 月曜日(祝日の場合は翌日火曜日)
観覧料    : 一般500円、学生400円、中高生250円  友の会会員は無料!
         (確か、東京都の学校に通う中高生も無料だったはず。学生証を持って受付で確認してください。)





公式ガイドブックはこちら

光と影の芸術―写真の表現と技法

光と影の芸術―写真の表現と技法

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 平凡社
  • 発売日: 2012/05/20
  • メディア: 単行本





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コメント 2

JUNKO

大変興味深く読ませていただきました。気軽に上京できない身としては助かります。
by JUNKO (2012-07-30 10:17) 

ぶんじん

JUNKOさんへ:
そう言っていただけると書いた甲斐があります。どうもありがとうございます。
by ぶんじん (2012-07-31 08:26) 

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