SSブログ

「平家の群像 物語から史実へ」 最初の武家政権は平家の六波羅・福原”幕府”だった? [読書 : 読んだ本の紹介]


平家の群像 物語から史実へ (岩波新書)

平家の群像 物語から史実へ (岩波新書)

  • 作者: 高橋 昌明
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2009/10/21
  • メディア: 新書


大河ドラマ「平清盛」に触発され、「山川日本史リブレット 「平清盛」」に続いて、またこんな本を読んでみました。
著者は日本中世史が専門。本書のサブタイトルにもある通り、「平家物語」のような”文学”作品だけではなく、歴史資料から読み解いて、平家の人々の実像に迫ろうとしています。基本的な論調として、平家の人々を再評価し、特に平清盛こそが武家政権の基盤を作ったのだ、と言うもの。象徴的な提言として、平清盛が六波羅(京都にある平家の屋敷)と福原(清盛が隠遁した土地)で行った政治体制は”幕府”と読んでも良いものだった、としている。そして、続く源氏の政権は、平家が築いた基礎をベースに、その手法をより厳格化して実行したのだ、と。
大河ドラマといい、この前読んだリブレットといい、平家再評価が流行のようです。

本書は平清盛から三代に渡る平家の人々の業績や生き様、性格までも史料から読み解き、その繁栄から滅亡までを描いています。ただ、平家といっても直系の”本家”だけではなく、兄弟・姉妹、さらには日本の各地に根付いていったいくつかの流れを持つ”平氏”、そして婚姻関係によって親戚となった人々と、登場人物は多種多彩。大昔、大学入試のために日本史を詰め込んだ時はまだ自分も若くて記憶力確かでしたが、今はなかなか厳しい。清盛の息子や孫が誰が誰だかこんがらがってしまいます。もちろん、本書には家系図も記されているので、分からなくなったらそれを見返せばいいのですが。

目次に沿って紹介すると、
★序章:清盛の夢 福原の新王朝
平氏の出自から始まって、平清盛が為したことを駆け足で書いている。

★第一章:「賢人」と「光源氏」 小松家の「嫡子」
平家一門の人々を紹介。清盛の兄弟、子供たち、孫たちだ。清盛長男の重盛は、清盛が福原に退居した後には六波羅内に屋敷(小松殿)を構えたため、「小松家」と呼ばれるようになった。さらに、重盛の長男が維盛で、彼はかなりのイケメンだったようで、光源氏の再来と言われていたそうだ。平家の華やかさを表す逸話だろう。

★第二章:「牡丹の花」の武将 はなやぐ一門主流
だが、一門の主流となっていったのは小松殿の流れではなく、清盛の正妻である時子の実子や、時子の兄弟・姉妹たちだった。それは時子が自分の腹を痛めて産んだ宗盛、知盛、重衡の三兄弟や、高倉天皇に嫁いで建礼門院となった娘の徳子たちだ。さらには後白河上皇に嫁いで建春門院となり、高倉天皇の母でもある滋子は、時子の腹違いの妹だ。

★第三章:内乱の中の二人 平家の大将軍として
平家も御家人の制度をとっていた。ただ、御家人は平家の棟梁に直接したがっていた中央集権的なものではなく、小松家などの各家ごとに仕えるものだった。そのため、平家と源氏の争いが起こっても、平家は一丸となって戦った訳ではなく、各家の御家人を従えた何人かの大将に率いられた連合軍的な体制だった。これは源氏の側も同じだったので、単純に平家v.s.源氏という構図ではなく、中には平氏を名乗っていても源氏側に付くものもいれば、その逆もあったそうだ。
★第四章:平家都落ち 追われる一門
都落ちにあっても、一族郎党が揃って西に向かった訳ではなく、京都に引き返してくる者、そのまま出家してしまう者、中には都落ちの連絡すらしてもらえずに置き去りにされた者までいた。
平家側の反撃も各家個別だったようで、平時でさえ難しい全体の統率が、戦時には全く為されていなかったようだ。

★第五章:一ノ谷から壇ノ浦へ 平家一門の終焉
平家物語ではヒーローとやられ役がはっきりしているが、史実の合戦はだいぶ違っているようだ。というより、細かいところは史料が不足していてよくわからない、と言うのが本当のようだが。
義経大活躍、が平家物語の語るところだが、実際は他の人の手柄をまとめて義経のものにしたようだ。また、平家の側も一時的には反撃が成功し、京都にとって返すほどの勢いを得たこともあった。もちろん、最後には壇ノ浦での敗戦となる訳だが。

★終章:さまざまな運命
敗戦”処理”として処刑された平家の人々の最後を描いている。また、壇ノ浦で生き残った建礼門院徳子のその後の消息も記している。


大河ドラマを観ていても、清盛の子供たちが一杯出てきてだんだんと人物関係が複雑になってきたところだったので、復習(予習?)としてもちょうど良かった。
それにしても、平家物語の作り出した”奢る平家”のイメージがいかに強く大きいものかを改めて知った感がある。史実はずいぶんと違っているようだ。歴史を真に客観的に語ることは難しいとはいえ、先入観やステレオタイプに囚われないことが大事だと思ったのでありました。

ということで、大河ドラマ読本としてもおすすめです。








nice!(17)  コメント(5)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

nice! 17

コメント 5

こっちゃん

ご訪問ありがとうございます。

by こっちゃん (2012-07-28 14:43) 

TaekoLovesParis

日曜夜のお出かけが多くて、「平家物語」を見逃してばかり。
ついていけなくなっていたので、この本はちょうどいいです。
by TaekoLovesParis (2012-07-28 23:03) 

ぶんじん

こっちゃんさんへ:
こちらこそ。どうぞよろしくお願いします。

TaekoLovesParisさんへ:
史実に反したストーリーにはならない「安心感」はあるので、キャッチアップは可能ですね。
by ぶんじん (2012-07-29 09:14) 

yukke-stk

私は学生時代歴史は苦手だったので、全くと言っていいほど、知らないことばかりなんですが、最近になって興味が湧いてきました。
実はわたくし、母方の祖父母が平家という苗字で、平氏の子孫なんですよ。
なので、平の話しには関心があります。
by yukke-stk (2012-07-31 12:36) 

ぶんじん

yukke-stkさんへ:
受験勉強と違って、ご先祖様の話だと思えば興味が持てますね。この本、人物中心に語っていますので、読み易いと思います。
by ぶんじん (2012-07-31 23:30) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。