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「石の宗教 (講談社学術文庫)」 [読書 : 読んだ本の紹介]


石の宗教 (講談社学術文庫)

石の宗教 (講談社学術文庫)

  • 作者: 五来 重
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2007/03/09
  • メディア: 文庫


都内を散歩していると、案外と街中に石仏・石碑・石塔の類が残っていることに気付く。例えば、我が街下北沢にも、南口商店街の中、餃子の王将のそばに昔から庚申さまが祀られた祠がある。
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その他、このblogでも紹介したけど、神楽坂そばの筑土神社の庚申塔や
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目黒の別所坂を登ったところにまとめて祀られている、青面金剛が彫られた庚申塔、
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そして麻布十番の氷川神社にあった、脚から下だけになっている青面金剛が彫られた庚申塔
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などなど。
単に「庚申塔」って書いてあるだけの石碑もあったり、こんな風に青面金剛(仏教の仏様)だったり、猿だったりと意匠は様々。なのにどれも庚申塔と呼ばれているのは、考えてみたら不思議。道祖神と庚申さまが一緒くたになっているのはそれなりの説明があったが、それにしても変ですね。で、本屋で見つけたこの本に、その辺りの謎解きが載っていたのでありました。

著者のことは全く知らなかったのですが、本書の解説によれば「柳田国男と折口信夫につぐ」民俗学者なのだそうだ。いやぁ、すごい人だったんですね。「日本仏教民俗学」と自ら名付けた研究分野を確立し、日本古来の祖先を祀る民衆の信仰と仏教とがどのように融合していったか(庶民がどのように仏教を自分達の祭りに取り込んでいったか)を明らかにしていった人とのこと。
ただ、本書は雑誌に連載されたものを集めたため、続けて読むと繰り返しが多くてちょいと読みにくい。また、これまでの欧米偏重のやり方じゃダメだ的なアジテーション(?)もちょっと鼻につく。が、それを気にしなければ、「なるほどねぇ」という新たな考え方、見方が一杯。おもしろいですよ。

例えば賽の河原。山の上にあって水も流れていないのに、何で「河原」なのか。そう、これはよく言われている通りに三途の川をイメージしているからだそうです。でも、昔はどうやら違ったらしい。賽の河原では死んだ人の供養のために石を積み上げる習慣があるけど、あれも本来は死んだ人が戻ってきてたたりを起こさないための封じ込めのためのものだったそうです。抱き石葬という埋葬方法が昔の日本には(にも)あり、これは死んだ人が祟らないよう・動き出さないように重石として置いたため。これが変わっていって、埋葬場所(つまりお墓)に石を積み上げるようになった。でも、賽の河原って埋葬場所なの?と思っていると、実は昔はそうだった。なんと、昔は風葬の習慣があり、賽の河原がその場所だったそうです。風葬は、遺体を外に置いておいて、骨になってから改めて埋葬するやり方。骨になるまでの過程では、遺体はかなりおぞましい状態になっていたはず。昔の人もその姿に餓鬼を想像し(というか、餓鬼というものがそこから想像された)、祟られるのではないかと恐れを抱く。なので、石を積んで封じ込めようとしたのだそうです。うむ、なるほどねぇ。

といった感じで、神道や仏教により「再解釈」される前の、民間信仰の真の姿がそこに掘り起こされていく、と言う印象を持ちました。確かに、神道・仏教は政治にも利用される、庶民にとっては上から与えられた宗教。それに対して素朴な民間信仰は自分達の草の根的なもの。そのせめぎ合いの中で村々の祭りの意味や、路傍の石碑の役割が変化していった訳ですね。これは面白い。

こんな風に庚申塔に関しても新たな解釈が展開されています。それは読んでのお楽しみということで、ちょっと読みにくいけどお薦めの一冊です。

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コメント 6

カエル

ぶんじんさんの記事を見るだけで、ちょっとわくわくしますね。
出雲大社の向きにも意味があるのと同じように、昔は祟りというような
意味合いが大きかったんですね。なるほどなるほど。ためになります。
by カエル (2010-03-08 00:01) 

ねこ大臣

いつも目にしていても、その意味・意義を知らないものって多いです。記事を読んで、自分の身近にある石仏のことを知りたくなりました。
by ねこ大臣 (2010-03-08 05:23) 

ぶんじん

カエルさんへ:
昔は死というもの、そして死体そのものも”身近”だったんでしょうね。祟りを恐れる気持ちはその分大きかったのでしょう。

ねこ大臣さんへ:
近所にあるのに、そしてよく見かけるのに、それが何者なのか知らないことってありますね。知らない存在だと気付くだけでも散歩が楽しくなるかも。
by ぶんじん (2010-03-08 22:50) 

fuu

むつかしい本の内容を こうやってぶんじんさんにわかりやすく
かいつまんで頂けるので~しあわせでございますw 

by fuu (2010-03-11 15:55) 

Ranger

庚申塔っていう言葉も始めてココで学びました。
多分、こちらでもあって、見落としているのかも

これからは、注意して探してみたいです
by Ranger (2010-03-12 15:37) 

ぶんじん

fuuさんへ:
かなりアバウトな「感想文」なので、解釈が間違っていたら平にご容赦を。

Rangerさんへ:
地域によって呼び名が違うのかも。道祖神の石碑も同じくくりです。元々は先祖の霊を敬う意味で男根・女陰をイメージさせる石だったのが、ちょっと顔を彫って(?)お地蔵さんに変わっていったとか。
by ぶんじん (2010-03-13 00:00) 

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