「フジツボ 魅惑の足まねき (岩波 科学ライブラリー)」 [読書 : 読んだ本の紹介]
「フジツボは貝の仲間ではなく、エビや蟹などの親戚に当たる甲殻類だ」という”衝撃の事実”が最初に語られる。もう、これだけでつかみはOKだ。
著者によると、いや、フジツボ研究者によると、フジツボのイメージは可愛い、優雅、繊細、可憐、ハラハラさせられる、魅惑的、奥が深い、、、となるのだそうだ。一般には、海岸の岩にびっしりと張り付いている気持ち悪い奴だとか、船の底や取水口などに張り付く邪魔な奴というイメージが普通なのだろうが、この差はなんなのか。フジツボが甲殻類だという事実とともに、読み始めてすぐにダブルパンチのようにガンガンと迫ってくる。いやぁ、これは面白い本でした。
著者はフジツボ研究者。その専門家が、フジツボの生態やダーウィンのフジツボ研究の紹介だけでなく、文化的側面からもアプローチしているのが面白い。まさに、フジツボを愛してやまないのだろう。そんな著者が語るので、専門用語は出て来ても、とても分かり易い。そしてなによりも読みやすいのだ。これ以上くだけると”萌え系”解説本になっちゃうかもしれないが、うまいところで止めている。
フジツボは甲殻類だという証拠として、”子供”の時代はエビや蟹と同じようにキプリス幼生の形態をとり、海の中を自由に泳ぎ回る。違うのは、エビ・蟹はキプリス幼生から変態して親になっても自由に動き回るのに対し、フジツボは適当な場所を見つけるとそこに身体から“セメント”をはき出してくっつき、その後はそこから一生動かないと言うこと。まあ、珊瑚や海綿、イソギンチャクだって固着性だし、珍しいことはないのだろう。固い殻に覆われているという見た目が貝を想像させるから、貝の仲間じゃないよと言われてびっくりするのかな。
それにしてもあのダーウィンがフジツボ研究の第一人者だったとは知らなかった。なんと八年の歳月をかけ、全四巻千二百ページにも上るフジツボの本を書いているのだそうだ。知っている人にとっては、このせいで「種の起源」の刊行が遅れることになったと悪名の高いものなのだそうだ。が、著者は生物の多様性と進化についてダーウィンが確信を持ったのはまさにこのフジツボ研究を通してだったと力説する。確かに、フジツボはその種類も多く、形態・生態の違うものが多いが、変わらない共通点も分かり易いので、変化していく様子が想像しやすいのだろう。ダーウィンはフジツボの研究をしているあいだ、来る日も来る日も解剖をし、その構造を研究していた。そのための専用顕微鏡まで特注したそうだ。
以前、「クマムシ?!―小さな怪物 (岩波 科学ライブラリー)」や「エピジェネティクス入門 三毛猫の模様はどう決まるのか(岩波 科学ライブラリー)」などを読んだが、このシリーズは楽しい本が多い。そして、この本もしかり。おすすめです。
フジツボの本ってあるんですね~。
面白い。
by ぴーすけ君 (2009-07-05 13:42)
どんなものも本とかで詳しく調べると思いも寄らなかった事が勉強になったり^^
この本を読めば、磯にへばりつく藤壺も愛しくなりそうですね^^
by Ranger (2009-07-05 13:59)
フジツボは普段ほとんど意識しない生き物ですが
奥が深そうですね。ダーウィンが研究したぐらいですもんね。
by メガネ君 (2009-07-05 14:12)
ぴーすけ君へ:
最近、”きもかわいい”生物が流行のようです。無脊椎動物ファンの私としてもうれしい限り。
Rangerさんへ:
そう、ものの見方が変わりますね。きっと次に海に行ったときは一生懸命観察しちゃうと思います。
メガネ君へ:
ダーウィンは「愛しのフジツボ」と呼んでいたそうです。のめり込むってのはやはり大事なことですね。
by ぶんじん (2009-07-05 23:52)
フジツボを題材にしたオカルト話があって、それ以来フジツボ苦手なんです(汗)
ましてや子供の頃は浮遊してるだなんて聞いてしまったら…海に入るのが怖い!
by リカ (2009-07-06 00:45)
フジツボの本があることにびっくり。
でも、あって欲しいですね、こういう本。
足元にも不思議がいっぱいだ・・
by HEIJI (2009-07-06 01:10)
リカさんへ:
人の身体にフジツボが・・・・ってやつでしょうか?
海にはフジツボだけじゃなく、プランクトンやらなんやら一杯泳いでいるんじゃないかな。みんなで仲良く泳ぎましょう!?
HEIJIさんへ:
何かにこだわっているっていいなぁと思います。さらにそれをこんな風に楽しい本にまとめちゃうなんてすてきだな、と。
by ぶんじん (2009-07-06 21:52)
そうそう、私もフジツボの怖い話を聞いて以来
どうも苦手です・・・・ ><
by jun (2009-07-07 01:42)
junさんへ:
この著者、フジツボが嫌われているのをかなり嘆いていました。そのイメージを変えるのだと。確かに、読めば考えが変わるかも。
by ぶんじん (2009-07-08 20:56)