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静嘉堂文庫美術館「あこがれの明清絵画 ~日本が愛した中国絵画の名品たち~」展 [美術 : 美術展、写真展紹介]

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ブロガー内覧会に行ってきました。例によって、特別な許可を得て、写真撮影させてもらいました。通常は撮影禁止です。

★ 展示内容

静嘉堂文庫美術館で開催中の「あこがれの明清絵画 ~日本が愛した中国絵画の名品たち~」展は、中国絵画の明朝末期・清朝初期の作品を集めた企画展。

● トークショー


今回もトークショーがあり、“饒舌”館長の河野館長と、東大東洋文化研究所教授の板倉先生が登壇。司会は青い日記帳のtakさん
まさに“饒舌”館長の真骨頂発揮というトークショーで、盛り上がりました。明清絵画という、渋いお題なのに、笑いも起きる場面多数。さらにはお二人のバトルも勃発。そんな楽しい感じなのですが、内容はとてもディープ。知らない話が一杯。
そのため、私には“内容をまとめる”程の知識もないので、以下、聞き書きそのままです。いや、聞き間違いもありそう。その辺りはご容赦を。

館長:
「あこがれの・・・」と言う今回の企画展のネーミングは、日本人が憧れた明清絵画を日本人目線で観た、と言う意味。
東京(六本木)|住友コレクション 泉屋博古館「典雅と奇想―明末清初の中国名画展」とのコラボレーション企画になっている。
明治大正時代、清朝崩壊に伴って明清絵画が大量に日本に渡ってきた。しかし、今回は江戸時代に入ってきたもの(古渡り)のコレクション。当時、中国は政治・経済・文化の憧れの対象だった。

あの北大路魯山人も初めは中国文化を愛していた。「中国に行けるならば、牢屋の中でもいい」と言った。近代になって西洋文化が上になったが、まだまだ憧れは強かったと考える。

板倉先生:
室町時代は東山御物(宋の時代のコレクション)が憧れの対象だった。江戸時代になって変化が生じ、明清絵画が人気になった。
東山御物は限られた人しか見られないものとなってしまった。が、知識人たちは、知識としてどんなものかは知っていった。その知識を比較のベースとして、明清絵画に接している。

館長:
伊藤若沖が模写した作品の、そのオリジナルの作品が収蔵・展示されている。
伊藤若冲の作品は展示していないが、伊藤若沖と沈南蘋との関係を説いたパネルを展示しているので見て欲しい。

板倉先生:
虎図(展示No.8):元々は中国の作品。韓国でも模写された。若沖も韓国の作品を見て模写している。ただ、若沖は中国の毛松の作品と思っていた。
韓国の作品は紙を横に接いでいる。また、風が手前と奥で逆に吹いている。これは中国絵画の表現にはない。
初公開作品が八点。

館長:
狩野探幽による模写は縮図が多い。張翬筆 山水図模本(展示No.2)は原寸大の模写。これは希少。
中国の原画は力強い。日本人が模写したものは柔らかな表現。

沈南蘋の老圃秋容図(展示No.10)の猫をポスターにした。岩合光昭さんの人気にあやかろうと。。。
来日してすぐに描いたんじゃないか。。。。

板倉先生:
いや、その猫は来日前に描いたものを持ってきた。日程的に、来日してすぐに書いたとは考えられない。
当時の文化人が見た沈南蘋の作品・作風はこれ。油絵っぽくなるのはその後・帰国後。

館長:
谷文晁派による老圃秋容図粉本(展示No.11)には 右下に判子が押されている。谷文晁の画塾の印鑑。お手本として利用していた。

板倉先生:
山水画のおすすめは李士達のもの。円山応挙が模写している。彼の作品は火難を避けるとの信仰があったため、好んで飾られた。

絖本(ぬめ:絹の光沢がよく出る)、金線(?)を多用。斜めから見ると光る。是非、角度を変えて眺めて欲しい。例えば、王建章の米法山水画(展示No.28)。金線の上に描かれているので、光って見える。
絖本は与謝野蕪村が愛用した。絖本、金線ブームは日本からの逆輸入で中国で流行ったらしい。

館長:
話してきたとおり、明清絵画は江戸時代の文人たちの憧れであり、彼らの創作を促し、影響を与えた存在だった。
そうそう、明清の書も見て欲しい。絵画だけではなく、書を残した人も多い。

● 展示

今回の展示はテーマごとに分類された構成になってます。詳細は以下の通り。
  • はじめに~ 静嘉堂の明清絵画コレクション
  • 明清の花鳥画
  • 明清の道釈人物・山水画
  • 文人の楽しみと明清の書跡
  • 清朝陶磁の紋様表現


花鳥画は色鮮やか。花鳥風月を描いた作品は、吉兆のためのものと、博物的な観点のものがある。
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道釈画(どうしゃくが:道教・仏教関連の人物画)では五百羅漢図(展示No.19)などが展示されている。一人だけ、やけにリアルに描かれた人物がいるが、この人はきっと実在の人物(僧侶)。
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明清絵画は、江戸時代の文人たちに人気で、茶会の席などで展示され、多くの人が観る機会を得た。
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明末清初の時代、明朝に従い続けた「遺臣(いしん)」と呼ばれる人たちと、新たな勢力である清朝に乗り換える「弐臣」と呼ばれる人たちがいた。職を失うこととなった遺臣の人たちは故郷などで余生を過ごし、多くの作品を残すこととなった。
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お手本として「カタログ」も作られ、多くの人が明清絵画を知る機会を得た。
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★ 感想

宋の時代の水墨画は、いかにも“水墨画”という感じで、寺社の奥まった部屋に飾られている物、と言うイメージがある。でも、明清絵画はもう少しファミリアな感じがする。実際、説明にある通り、江戸時代も一般の(と言ってもセレブではあったのだろうが)文人たちが好んだそうだが、身近な存在だったのだろう。

さらには、ちょっとリアルな表現なのも面白い。写実的と言うほどではないものの、虎の毛並みや飛んでいる虫の脚など、やけにリアル。一般の遠近法とは違うものの、墨の濃淡、色合いによる奥行き感の表現など、現代の我々には馴染みやすい気がする。
「世界に挑んだ7年 小田野直武と秋田蘭画」展トークイベントはアートと歴史ミステリーと江戸文化論と盛りだくさん」で観た秋田蘭画は、名前の通りに西洋絵画の影響を受けたものだけど、この明清絵画は中国の画家たち・職人たちが独自に編み出した様式。似ている点もある物の、やはりオリジナル。その相違点を観るのも面白かった。

中国の原画と、日本人画家が模写したものが並んで展示されているのも面白い。館長の仰る通り、模写とは言え、ずいぶんと雰囲気が違っている物がある。関心を持った点を中心に、その部分はより丁寧に写したと言うことなのだろう。そこから、この人はこの絵のここに着目したのか、なんてのが分かる。共感する点もあるし、なんだここなのだろう?というものもあり、なかなか面白い。
そんな、鑑賞のポイントを学ぶこともできた。

正直、馴染みの薄かった明清絵画だが、館長の熱弁、板倉先生の楽しいトークで一気に引き込まれてしまった。
一見の価値ありですよ、これ。

★ 美術展情報

「あこがれの明清絵画 ~日本が愛した中国絵画の名品たち~」展は下記の通り、開催中。
  • 会期 : 2017/10/28(Sat) - 12/17(Sun)
  • 開館時間 : 10:00 - 16:30
  • 休館日: 月曜日
  • 料金 : 一般1,000円 大学生・高校生 700円 中学生以下 無料
  • 公式サイト : 静嘉堂文庫美術館 | 開催中の展覧会・講演会
  • 図録
    静嘉堂文庫美術館でお馴染みの(?)ポケットサイズ図録です。カードと一緒に並べたけど、サイズ感がわかりますかね。
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  • 参考書







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JUNKO

展覧会だけでなくそういうトークがあるのもいいですね。今月は京都紅葉より美術館巡りでもしようと思っています。
by JUNKO (2017-11-04 11:10) 

ぶんじん

JUNKOさんへ:
今回はブロガー向けでしたが、一般向けのギャラリートークが行われることも多いようです。機会があれば参加してみたらいかがでしょうか。
by ぶんじん (2017-11-04 13:07) 

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