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「謎の独立国家ソマリランド」 : 文化の多様性とはこういうことか。学ぶこと多し [読書 : 読んだ本の紹介]

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★あらすじ

ソマリアは無政府状態が続き、「崩壊国家」と呼ばれている。しかし、ソマリアの一角に、そこだけ十数年も(2012当時)平和を維持している独立国家がある。それがソマリランドだ。しかし、書籍やネットの情報は少なく、矛盾しているところもある。また、さらにソマリアには東部にプントランドなる国家(?)も存在するらしい。ソマリア統一を妨げているのはこれらの自称国家なのだろうか。結局、自分の目で見てみないと分からない。
そして、著者はソマリランドに旅立った。本書は、著者によるソマリランド&ソマリア紀行文であり、潜入ルポでもあり、これらの国家の謎を解き明かした著者の解説論文でもある。

ソマリアは統一政府が存在せず、ソマリランドは国連その他から独立国家として認められていない。一体どうやってビザを取得すれば良いのか。著者の戸惑いや苦労はそんな基本的なところから始まる。
苦労して入国したソマリランドだが、街は確かに平和だった。「ソマリランド・シリング」という独自通貨も流通させている、ちゃんとした国家だし、市場では両替商が札束を積み上げている。でも、銃を持った護衛が要る訳でもない。日本よりもここは平和かも知れないことを著者はすぐに理解した。
ソマリランドが平和を作り上げた経緯についても驚くべき話を聞く。内戦で互いに殺し合った氏族(日本で言えば、戦国時代の豪族・戦国大名のような感じ。著者もこの比喩を用いて説明している)だったが、長老たちが集まって話し合いをし、争いを終結させたばかりか、武装解除まで行ったのだそうだ。そして今や夜中でも若者が携帯でゲームをやりながら街中を歩いている姿が普通になっているのだ。にわかには信じがたい。著者はその話の奥にある真実を知りたいと、さらに強く思うようになったのだ。

ソマリアは大きく言って三つに分かれている。
  • 「民主主義国家」のソマリランド
  • 「海賊国家(?)」のプントランド
  • 「リアル北斗の拳」の南部ソマリア(原理主義勢力、暫定政府、その他の武装勢力が覇権を争っている)
という感じだ。このうち、ソマリランドは独立国家を主張している。プントランドはソマリア国家内の自治州的な位置づけだと名乗っていて、ソマリア統一を主張している。そして南部ソマリアは誰が覇権をとっているのかも分からない状態が続いている。

ソマリランド中央部は一般の人でも観光ができるほど安全だ。ホテルも格安で、無線LAN、エアコン、お湯の出るシャワー、ランドリー、食事、両替などができる。支払いは米ドルのみ。街のカフェではカプチーノやマキアートも楽しめる。インターネットカフェだってある。
ちょっと離れた(もと一緒の国の)南部ソマリアでは今も内戦が絶えず、日々、人が死んでいるというのに、ここソマリランドは奇跡とも言える平和を実現している。
その謎を著者は、現地の人びとの“宴会”に入り浸り、聞き出していったのだ。この“宴会”、ソマリの人が常用している「カート」という、食べるとハイになる葉っぱをみんなでやり合うというものだった。

★基本データ&目次

作者高野秀行
発行元本の雑誌社
発行年2013

  • プロローグ
  • 第1章 謎の未確認国家ソマリランド
  • 第2章 奇跡の平和国家の秘密
  • 第3章 大飢饉フィーバーの裏側
  • 第4章 バック・トゥ・ザ・ソマリランド
  • 第5章 謎の海賊国家プントランド
  • 第6章 リアル北斗の拳 戦国モガディショ
  • 第7章 ハイパー民主主義国家ソマリランドの謎
  • エピローグ

★ 感想

ソマリアというと私の知識は乏しい。まあ、アフリカ全般について乏しいのだが。
ソマリアで最初に思い出すのが映画「ブラックホーク・ダウン」だ。ソマリア内戦に介入したアメリカが、首都モガディショで作戦失敗し、ヘリコプター(ブラックホーク)が撃墜され(ダウン)、パイロットが裸にされて街を引きずり回された出来事を描いた作品だ。ソマリアはとんでもない国で、どうしようもない、という印象を強く与えた。
その後、ソマリランドって「国」が分裂して、そこだけはうまくいっているという話もちょこっとは知っていた。だが、やはり関心は薄かった。でも、そんな国を自分で歩き回って、その体験を書いた本があると知り(つまりは本書のこと)、これは読んでみないといかんなと思ったのでした。あの映画の印象通りだったら、外国人が歩き回れるようなところでは絶対ないだろうと思えて、どうやって無事に帰ってきたのだろうかと、単純にそれだけでも気になったのだ。もちろん、ソマリランドの秘密も知りたかったし。

著者はその秘密の一つに「氏族による支配」があると語っている。まずは「部族」と「氏族」の違いから著者は説いている。よく使われる表現の「部族」だがそれは誤りで、アフリカの多くで「氏族」が支配の中心になっている場合が多いのだそうだ。その違いは本書を読んでいただきたいが、戦国武将に喩えたりして、分かり易く解いてくれている。
政治家や大統領などもこの氏族を中心にした力関係で選ばれている。仕事や商売も氏族のコネクションが重要。こう聞くと、かなりオールド・ファッションのイメージが。やはりアフリカは“遅れた”地域なのだろうか。でも、この本を読んでいくと、それは自分たちの固定的な価値観による見方でしかないのかも、と気づき始める。国家とはかくあるべき、民主主義とはこうでなければならない、戦国時代のような“古い”やり方では国民は幸福ではない、“真の幸福”を知らないだけだ。。。などなどと思い込んでいたのだが、ソマリランドの人びとはそのやり方で平和を実現し、そして日々の生活に幸福を感じているのだ。ソマリランドのほとんどの人びとはソマリランドを支持している。国連に認められていない国家だなんてことは関係ない。彼らの考え方・やり方はとにかく結果を出している。

ソマリランド、そしてソマリアのことも良く知れる貴重な一冊だが、それ以上に、文化の多様性を理解すること、そしてそれを受け入れなければ「紛争解決」などは何百年かかっても無理だと言うことを教えてくれる一冊でした。強く強くおすすめします。



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