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「江戸の流刑」 : 文化の伝播者であり、犯罪者であり。その二つをそれぞれの島にもたらした [読書 : 読んだ本の紹介]

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★あらすじ

日本における流刑の歴史は記紀の時代に遡る。若き皇女、軽大娘(かるのおおいらつめ)は同母兄の木梨軽太子との近親相姦の罪により流罪となり、四国の伊予の湯(道後温泉)に流された。さらには、かの壬申の乱の後、破れた左大臣・蘇我赤兄、大納言・巨勢臣比等が流刑に処せられ、修験道の祖である役小角が伊豆大島に流された。古代では、流刑は一般庶民に対する罰ではなく、政治犯への刑であった。それは「大宝律令」によって初めて成文化された。また、流刑地は島とは限らなかった。

江戸時代になると交通網の発達により、流刑地は海を隔てた島となった。各地で定められたが、江戸の場合は「御定書百箇条」によって大島、八丈島、三宅島、新島、神津島、御蔵島と決められた。行き先は罪の重さによって決められ、
  • 近流 大島・新島 主に軽犯罪者
  • 中流 三宅島 主に破廉恥犯
  • 遠流 八丈島 主に思想犯
とされた。

江戸時代、島送りの流人は自分で生計を立てる"渡世勝手次第"を原則とした。八丈島では各村がくじ引きで引き受ける流人を決め、流人を村に連れ帰って五人組に預けた。彼らは畑を耕すなり、学のあるものは島の子弟に学問を教えたり、医術の心得のあるものは医者となって暮らしを成り立たせた。また、国元からの仕送りも主な収入源であった。
だが、八丈島は火山灰地であったことと、風害・塩害によってたびたび飢饉に襲われた。飢餓に備えて備蓄された食料は、島民に分配するだけしかなく(それも足りなくて餓死者を多く出したことも)、流人には充てられなかった。元禄年間の飢饉では、国元から充分な金銭を送られていた永見大蔵(大名の弟であった)が餓死した。金はあったものの、いくら金を積んでも食料を売ってもらえなかったのだ。(千両箱を枕に餓死していた、との話も)

流人の中には江戸の文化を伝え、島の発展に貢献するものも少なくなかった。だが、時代が下ると"単なる"凶悪犯が流されてくるだけとなり、島での再犯事件も跡を絶たなかった。島の人びとは厳罰(八つ裂きや、生きたまま断崖絶壁から突き落としたり)をもって望んだ。しかし、江戸の治安をよくするため、そして牢獄があふれかえるのを解消するために幕府は流人を送り続ける。島の人びとはそれ自体を止めることは出来なかった。

★基本データ&目次

作者小石房子
発行元平凡社(平凡新書)
発行年2005
ISBN978-4582852691

  • 第一章 流刑の歴史
  • 第二章 流人の罪状
  • 第三章 島流し
  • 第四章 島の生活
  • 第五章 再犯に対する仕置きと島抜け
  • 第六章 江戸流人列伝

★ 感想

八丈島旅行(八丈島旅行記 : まとめページ(目次))に行くに当たって選んだ"参考書"の一冊。と言っても、読んだのは帰ってきてから。旅の前には「茄子の樹―八丈島の豊かな自然と歴史と民俗を歩く」を読んで全般的な知識を得て、帰ってきてから少々ディープな話をもって復習をした形です。

米の余り採れない八丈島に、サツマイモによる酒を伝えたのも流人の一人。彼は"島のバッカス"を讃えられ、碑も建っている(八丈島旅行記 : 歴史民俗資料館、ふるさと村、島酒の碑)。近藤富蔵は八丈島の歴史書を残している。
でも、一方では凶悪犯による殺人事件も多かったようだ。島の人びとの気持ちはどうだったのだろうか。規模や意味合いはずいぶんと違うが、十字軍遠征による"文化交流"や、民族大移動などを経験している欧州・中近東の人びとも同じような体験・想いをしたのかなぁと感じた。自分たちの意志とは関係なしに知らない連中がやって来て、良いことも悪いこともしてくる。それにいかに関わるのか、難しい話だ。もちろん、受け入れるしかないのだろうが。。。
ゆったりとした時間が流れる感じの八丈島だったが、百年あまり前まではこんな苦労をしていたんだなと思うと、あちらこちらで見てきた景色がまた違った意味を持って思い起こされてくる。

さらに話は脱線するが、でも、異文化コミュニケーションってこういうことなのかも知れない。流刑の歴史自体、興味深いものだったが、色んなことを考えさせてくれる一冊だった。
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コメント 2

カエル

八丈は思想だったのですね〜。なるほど!
by カエル (2014-12-31 03:05) 

ぶんじん

カエルさんへ:
なかなかに深い歴史があり、まだまだ勉強しないと、と思ってます。
by ぶんじん (2014-12-31 22:15) 

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