「国際メディア情報戦」 : 作られたイメージの向こうにある真実を見いだすのは難しそうだ [読書 : 読んだ本の紹介]
★あらすじ
2012年春、中国で反体制活動家の亡命騒動が起きた。アメリカへの亡命意志を、滞在中の北京市内の病院で表したのだ。日本ではさして報じられなかったこの話は、アメリカではトップニュースとなった。その身柄を中国政府はどうするのか。出国を認められずに拘束され、人知れず"行方不明"となるといった想像もされた。そうなったらアメリカ政府もそれを見殺しにしたと非難されるかもしれない。だが、ここで中国政府がとった態度は意外なものだった。「米国留学の希望があるならばそうすれば良い。そして出国せよ」と、あっさりと米国行きを認めたのだ。中国政府は「国際メディア情報戦」における集中的な中国バッシング報道を避け、国家イメージの悪化を防いだのだ。今や中国も「国際メディア情報戦」の重要性を理解し、その戦いに打ち勝つべく考え、行動している。
前作のドキュメント 戦争広告代理店〜情報操作とボスニア紛争 (講談社文庫)は、PR会社のジム・ハーフから詳細な一時資料の提供を受け、長時間にわたるインタビューもさせてもらったからこそ書けた作品だった。彼のいたルーダー・フィン社はボスニア政府をクライアントとして、ボスニア紛争においてユーゴスラビアを相手に"情報戦"を起こし、国連追放・NATO空爆・ミロシェビッチ元大統領の逮捕(のち獄死)という成果を上げた。
今や、イメージ作りの情報戦は本物の銃弾よりも威力がある。世界がどのように動くか、その国や勢力の運命がどうなるかはそれにかかっているのだから。
★基本データ&目次
作者 | 高木徹 |
発行元 | 講談社(現代新書) |
発行年 | 2014 |
- 序章 「イメージ」が現実を凌駕する
- 第1章 情報戦のテクニック ジム・ハーフとボスニア紛争
- 第2章 地上で最も熾烈な情報戦 アメリカ大統領選挙
- 第3章 21世紀最大のメディアスター ビンラディン
- 第4章 アメリカの逆襲 対テロ戦争
- 第5章 さまようビンラディンの亡霊 次世代アルカイダ
- 第6章 日本が持っている「資産」
- 終章 倫理をめぐる戦場で生き残るために
★ 感想
前作の「ドキュメント 戦争広告代理店〜情報操作とボスニア紛争 (講談社文庫)」(私が読んだのは、文庫になる前の単行本の版だったが)がとても面白く、そして興味深いものだったので、本書もその続編として期待して読んだ。前作の"種明かし"も織り込みつつ、その後の世界の動きを「メディア情報戦」の観点で見ていく展開は期待以上に面白く、引き込まれてしまった。ビンラディンを殺される直前まで世界中のテロ活動を指揮していた中心人物だと印象づけることによって、当事国にまで黙って特殊部隊を潜入させて行った暗殺を"正当化"する、その「メディア情報戦」の威力は、話を聞いていいて空恐ろしくなる。ビンラディンは確かにアルカイダのトップであり続けてはいたが、暗殺されたあの隠れ家に閉じこもっていた頃には、まさに外界との接触をほとんど断って、息を潜めているしかなかったらしい。
誰かによって作られた(全くのフィクションではないが、ある一面だけの見方を大きく増幅させた)イメージを、我々はいとも簡単に信じてしまう。そして、そのイメージを作り上げることを商売としている会社があり、各国政府や大企業などが普通に雇っているということも恐ろしい話だ。
「真実を見極めるために、何事も自分の目で見ろ」とは良く言われる言葉だが、そんなプロたちの手による「メディア情報戦」に一人で立ち向かう、いや、そこまでしなくても真実を見極めること自体、負けは目に見えている気がする。
本書を読んだからといって、「メディア情報戦」に勝てるようになるわけではないが、少なくともそのような世界の流れがあるということを知るのは重要だろう。今の時代を生きる人におすすめの一冊です。
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前作の「ドキュメント 戦争広告代理店〜情報操作とボスニア紛争 (講談社文庫)」はこちら。
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