SSブログ

「アテネ民主制 命をかけた八人の政治家」 [読書 : 読んだ本の紹介]


アテネ民主政 命をかけた八人の政治家 (講談社選書メチエ)

アテネ民主政 命をかけた八人の政治家 (講談社選書メチエ)

  • 作者: 澤田 典子
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2010/04/09
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


民主政治の原点、市民全員参加、そして陶片追放。あとはソクラテスを死に追いやった裁判くらいでしょうか、アテネの政治に関して私が知っていたことは。それが、この本を読んでかなり印象が変わりましたよ、アテネに対し、そして民主政治というものに対して。
私が言うのも何ですが、簡単に当時のギリシアやその周辺の状況をまとめると、アテネが民主制であった紀元前五世紀から紀元前四世紀にかけて、都市国家のアテネやスパルタ、そして強大な王国のマケドニアやペルシャが覇権を争っていた頃。つまりは戦争の絶えない時代だったのでした。そんな物騒な時代に、今の感覚からすると“のんびり”ムードの民主制がなぜアテネで生まれ、栄えたのだろうか。考えると謎です。で、この本を読んでその当たりの事情がよくわかりました。簡単に言えば、民主制とは実は非常にシビアで過酷なものだった(少なくとも政治家にとって)ということがその答え。

民主制の頃のアテネでは、政治家として成功し、市民を代表するようになることはとても名誉なことだった。しかし、政策を誤って戦争に負けたり、国家経済にダメージを与えるとすぐに市民たちの裁判が待っていて、結果は(無罪にならなければ)死刑か国外追放。頂点と奈落の底のどちらかしかない。しかも、頂点に立った政治家のほとんどはその後、弾劾裁判により死刑か追放となっている。無事に余生を過ごした人はほとんどいなかった。アテネ民主制とはかくも厳しいものだったそうだ。著者が引用しているM.I.フィンリーの言葉がそれを端的に表している。
   「アテネの政治指導者であることの条件を表す言葉を一つだけあげるとしたら、それは『緊張』だろう」
ハイリスク・ハイリターン。いや、期待値からするとリターンはそれほど高くなかったのかもしれない。ならば、なぜアテネの指導者たちは政治家を目指したのだろうか。相手を蹴落として頂点に立つこともやはり多かったようだが、そこまでさせるものは何だったのか。著者がこの本を通して明らかにしようとしているのはその疑問に対する答えだ。そのため、世界史の教科書には載っていないようなマイナーな人も含め、八人の政治家の生涯を追っている。
そんな政治家たちに共通しているの「説得力」。民主制では市民をどうやって説得し、自分に賛成票を投じてくれるようにするかが問題。その説得の仕方が、アテネ民主制百八十年の歴史の中でだんだんと変わっていったというのが、著者のもう一つの主張。これはおもしろかったですね。自分も会社の中でいろんな部署の調整をするような仕事をしているせいでしょうか、“親近感”を感じました。
で、説得力の一つがかの有名な「弁論術」。そしてその弁論術を教える先生がソフィスト。政治家たちは高い授業料を払ってソフィストから弁論術を習い、自分の説得力に磨きをかけていったそうです。実は弁論術ってどんなものかよく知らなかったのですが、大声を出す練習なんてのがその基礎編であったそうです。広場で市民に語りかけ、自分の主張を理解してもらうには、まずは相手に聞こえるようにしないといけない訳ですね。

「今の日本の政治には緊張感が欠けている」なんていう台詞をよくテレビで解説者が言っているのを耳にする。でも、本当の緊張感とはどんなものか、それこそ緊張感なく軽々しく考えているのかもしれない。その解説者も我々も。そんなことを考えさせられる一冊だった。
恒久平和なんて、そう簡単には実現しないだろうから、いやでも国と国との争い(武力だけではなく、経済や宗教の対立なども含めて)は続く。民主制とは一人一人が緊張感を持ってそれらに対峙していかねばならないと言うこと。うむ、、、、、気を引き締めていかないといかんですな。
とはいえ、この本は“そんなこと”を煽るようなものではありません。むしろ、淡々とアテネの政治家たちのことを描いています。それ故にとっても深いものがあるように感じました。暑い夏におすすめの一冊です。



ソクラテスの弁明・クリトン (岩波文庫)

ソクラテスの弁明・クリトン (岩波文庫)

  • 作者: プラトン
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1964
  • メディア: 文庫



nice!(8)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

nice! 8

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。