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「最終戦総論」 [読書 : 読んだ本の紹介]


最終戦争論 (中公文庫BIBLIO20世紀)

最終戦争論 (中公文庫BIBLIO20世紀)

  • 作者: 石原 莞爾
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2001/09
  • メディア: 文庫




以前、中国の大連に出張するに当たって何冊か大連や満州に関する本を読みました。それまでは学校の日本史で覚えた程度の知識しかなかったので、ほほぉと思うことばかり。中でも、石原莞爾という人が気になりました。教科書だと柳条湖事件の首謀者と言うくらいしか名前が出てこないんですが、実はやたらと壮大なことを考えていて、またそれを実行に移そうとしていたらしい。ということで、本屋でこの本を見つけて買ってしまったのでした。

石原によると、戦争には二種類あるとのこと。敵を殲滅するか占領し、完全に勝利を収める決戦戦争。もう一つは、相手を完全には倒せずに部分的な勝利を収めるだけの持久戦争だ。時代によって、武器や戦術の進歩によって相手を倒す力を付けた国々が戦争を行うとそれは決戦戦争になる。防御力の進歩が上回ったり、戦場が広大になったり、さらには傭兵に頼って兵士の全体的士気が下がったりした時代だと持久戦争が主流になる。歴史を振り返ると、この二つの時代が交互に訪れていると石原は分析する。決戦戦争の時代では武力の優劣が勝敗を決める主要因になり、持久戦争においては外交や交渉、経済力などの比重が高くなる。
なるほど、確かにそういう気もする。
石原がこの思想を固めていった時代は、第一次世界大戦が終結したころ。ヨーロッパ全体が戦場となり、毒ガスや飛行機による爆撃なども使われたものの、相手の国を滅ぼすまでの結果とはならなかった。つまり、彼の分析では持久戦争の時代だったのだ。ところが、彼は予測する。もうすぐ決戦戦争の時代になる。そして、科学のつまりは兵器の進歩を考えると次に戦争になったらならば、負けた方はまさにこの世から消え去ることになるだろう。それくらい強力な兵器が登場するはずだ、と。
後付の私の感想だが、石原は核兵器や大陸間弾道弾などの登場を予想していたように思えてしまう。この時期ならば、ドイツでは核分裂による爆弾の研究もなされていただろうから、実はその情報を手に入れていたのかも知れない、などと想像してしまう。
さて、最終戦争はどことどの国が行うのだろうか。それも石原は予想している。いや、そこに自分の“意志”が入ってくるのだが。候補は四つ。一つ目はソビエト連邦。周りの社会主義国家を飲み込んでいき、力を付けてくるとしている。二つ目は米州。アメリカが中南米を一体化していくと見ている。三番目がヨーロッパ。第一次大戦後、欧州各国で(どこが中心化は別にして)連盟化していかねばならないとの機運が高まっていると分析する。最後の四つ目が東亜だ。日中は戦争状態にあるが、日本も他民族を下に見ることをやめて真に手を取り合うべきだと訴える。この四つの勢力が争うが、“決勝戦”は米州と東亜になるだろうというのが石原の考えであり、そこで繰り広げられるだろう戦争が「最終戦争」になるとしている。
科学の進歩によって生まれてくる兵器は都市を破壊するだけの威力を持ち、それを自由に運んでくる飛行機も地球を何周も回れるほどの性能を持つ。そうなると、攻撃対象は軍事施設に限られることはなく、街ごと・都市ごと破壊してしまうようになる。兵士だけではなく、都市に住む住民も等しくその戦火に耐えねば勝てないというのだ。そんな最終戦争が数十年後には現実になると予言し、それに備えることが今やるべきことだと石原は訴える。その準備を昭和維新と呼び、目指すは東亜連盟だとしている。日中韓が一体となって生産力を高め、最終戦争に備えねばならないということだ。

以上が石原の主張だ。この主張を実行に移すべく、中国を取り込もうと画策していき、柳条湖事件や満州事変へと進んでいく。が、軍内部から反対にあって挫折してしまうのがその後の経緯だ。
ファシズムに基づく議論であり、積極的ではないものの戦争を辞さない(売られた喧嘩だから買わねばならない、と言うことなのだろうが・・・)考え方はさすがに今の世の中には受け入れられないだろう。だが、大きなビジョンを持ち、それに向かって国を変えていこうという理念や行動力には、危険だが魅力を感じざるを得ない。与党になったというのに未だに野党の時のような理想論だけで無駄に議論を重ねている今の政権を思うと、ヒーロー待望論という危ない気分にどうしてもなってしまう。
そんなことをいろいろと考えさせられる一冊だった。おすすめはできないかな。At your own riskでどうぞ。



戦争史大観 (中公文庫BIBLIO)

戦争史大観 (中公文庫BIBLIO)

  • 作者: 石原 莞爾
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2002/04
  • メディア: 文庫



幻の大連 (新潮新書)

幻の大連 (新潮新書)

  • 作者: 松原 一枝
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2008/03
  • メディア: 新書



石原莞爾と満州帝国 (新人物文庫)

石原莞爾と満州帝国 (新人物文庫)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 新人物往来社
  • 発売日: 2010/02/05
  • メディア: 文庫



〈満洲〉の歴史 (講談社現代新書)

〈満洲〉の歴史 (講談社現代新書)

  • 作者: 小林 英夫
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2008/11/19
  • メディア: 新書



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コメント 3

TaekoLovesParis

伯父から、石原莞爾は立派だったと聞いていたので、名前を見たとたんに、
「陸軍の、、」と思いました。ぶんじんさんのまとめてくださったのを読んでみると、冷静に時代を見て、大局的に先を考えていますね。<日本も他民族を下に見るのをやめ、、、>、あー民族主義の時代だったんだな、と改めて思います。
最後のところ、与党になったというのに、、の行がぴりっときいてます。
by TaekoLovesParis (2010-05-23 09:41) 

カエル

昔の人は情報入手するのが難しかったのに、世の中が見えている方が多い様な気もします。過去の我々の先輩がやってきたことには興味を覚えます。
ベトナムから帰ってきました。
日本も7ヶ月間ベトナムを占拠したことがあるとガイドさんから説明を受けた時に、その場に、いたたまれなくなりました。
by カエル (2010-05-24 07:44) 

ぶんじん

TaekoLovesParisさんへ:
時代が人を作るんでしょうかねぇ。今とどうしても比べてしまいます。

カエルさんへ:
生きるか死ぬかがもっと切実な課題だった時代。気合いが違うということなのでしょうか。気合いが入りすぎるととんでもないことをしちゃう訳で、どっちがいいのか難しいですね。
by ぶんじん (2010-05-26 20:01) 

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