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「ルドンの黒 眼をとじると見えてくる異形の友人たち」展 [美術 : 美術展、写真展紹介]


渋谷のBunkamuraザ・ミュージアムで開催されている「ルドンの黒」展に行ってきました。
オディロン・ルドンは19世紀末フランスの画家(版画家)だそうですが、この人のことはおろか、彼の作品も全く知りませんでした。なので、今回が“初対面”。版画(リトグラフ)でしかも黒の単色刷り作品が彼の創作の中心だということで、暗く陰鬱なものが多いような気がしていた。が、ポスターに描かれた”まっくろくろすけ”のような奴の顔は何ともユーモラス。このギャップにまずは興味を持った。この人は何を描こうとしたのだろうか。
答えはいろいろあるようだが、その時代や付き合った友人たちに大いに関係がありそうだ。世紀末の時代は科学が大きく進歩した時代でもあった。ダーウィンの「種の起源」が出版されたのは1859年。天体観測技術が進歩して地球外生命体が話題になったのもこのころだそうだ。さらにルドンはある植物学者と知り合いになる。彼によって顕微鏡の世界を覗き、微生物やらなんやらの“異形の友”の存在を知ったようだ。ちなみにこのころ、ドイツのカール・ツァイスが顕微鏡を大きく発展させ、700倍の倍率を実現させたそうだ。
彼の作品は、そんな科学的な新しい世界とともに、彼の見る夢とが混沌となったところから生まれたようだ。魚に顔がある。宇宙に浮かぶ天体には今、発生途中であるような生き物が中に入っていたり、気球が眼球そのものだったり。こいつらは何を象徴しているんだろうか、ルドンは何を言いたいのだろうか、なんとも難解だ。でも、そんな解釈をする前に、この訳のわからん連中のユーモラスさに思わず惹かれてしまう。それによくよく見ると微妙に怪しいのだ。例えば例のまっくろくろすけ。蜘蛛がそのモデルのようだが、なぜか脚が10本ある。死の舞踏に描かれているような骸骨もよく登場するのだが、ろっ骨のつき方がなんとなく・・・。まあ、そんなこんなでじっくり観ているとなんとも味が出てくる。顕微鏡で本物を覗いたのだろうか、精子のようなものがふわふわしている姿はちゃんと特徴をとらえているようだ。彼の独自の世界は何とも不可解ではあるが、それでも親しみを感じられる。なるほど、それが魅力なのかな。
実際の挿絵になったわけではないようだが、自分で読んだ本に共感を覚えると、その物語をモチーフに作品集を作る、というパターンもこの人は多いようだ。感動した本の感想文を書くようなものなのだろうか。『エドガー・(アラン・)ポーに』だの『聖アントワーヌの誘惑』だの、『悪の華』だのといった感じでシリーズものの作品を創作している。それぞれの話を自分なりに解釈し、例の(?)目玉の怪物で表しちゃうところがやっぱりユニークだが。
で、この人はずっと単色(黒い)版画ばかりを作っていたのかと思ったらそうでもないようだ。年をとってからはパステル画などで色彩あふれる花を描いてみたり、女性をモデルにもしている。今回の展示でも何点か観られるのだが、それまでの作品群とのギャップに同じ人が描いたとはちょっと思えないほどだ。このころになって色つきの夢を見るようになったのだろうか、ルドンさんは。最期まで謎の人のようだ。

なぜか岐阜県美術館がこのルドンのコレクションで有名なのだそうだ。その数200点。こんな特徴のある美術館ならば”箱もの行政の無駄遣い”と言われることもないのかな。いつか行ってみたいと思いつつ、Bunkamuraを後にしたのでした。



会期: 2007-7-28(Sat) - 2007-08-26(Sun)
開館時間: 10:00 - 19:00
毎週金・土曜日は21:00まで
入館料:  一般 1,300円


オディロン・ルドン―光を孕む種子

オディロン・ルドン―光を孕む種子

  • 作者: 本江 邦夫
  • 出版社/メーカー: みすず書房
  • 発売日: 2003/07
  • メディア: 単行本


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魚月見砂

ルドン。
モローも同世代というから、なんとなーく、不思議な感じ。
どっちも「好き」と言い切れないけれど、つい見ちゃうとう絵。
by 魚月見砂 (2007-08-07 22:34) 

mamire

こういうの、「トトロ」に出てきましたよね。
足が10本とは、本当に不気味。
たまには、槌から離れて、文化に触れてみたいものですよ。
by mamire (2007-08-07 23:02) 

ぶんじん

pinさんへ:
モローのサロメもいいですなぁ。あの妖しさにはまります。
ルドンさんは意外に明るめかも。

mamireさんへ:
Bunkamura、絵を観てカフェでお茶して、本屋で立ち読み。
時間があれば映画も観たりして。まさに文化的娯楽がいっ
ぱいです。
by ぶんじん (2007-08-08 22:10) 

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