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「サンクト・ペテルブルグ―よみがえった幻想都市」 [読書 : 読んだ本の紹介]

ロシアで二番目に首都がおかれた街。旧ソ連体制下ではレニングラードという名前で呼ばれていた街。そして世界遺産にも登録されている街。エルミタール美術館のある街。最近ではプーチン大統領の生まれた街としても知られている。私にとってのサンクト・ペテルブルグはその程度の認識しかなかった。が、「イヴァン雷帝」 を読んでモスクワの成り立ちを少々学んだので、次はこれかなと思い、この本を読んでみたのだった。
著者は外務省入所後にソ連の日本大使館に勤務、その後はロシア語の教授となったとのこと。歴史や美術の専門家というわけではない。だが、専門家ではないからこそサンクト・ペテルブルグに関して一冊の本にまとめようという気になったのだそうだ。この街の歴史は壮大で、各様式の建築物が五万と立ち並び、世界の美術品が集められている。まじめに(?)語ろうとしたら百科事典を書くことになってしまうようだ。そんな街を、旅行者よりもちょっと(?)長めに滞在した著者が、この街が好きだし気に入ったから紹介するんだ、という雰囲気で語ってくれている。旅行に行く前の、また本格的に学ぶ前の入門書としてまさにぴったりといえるだろう。
そんな訳で、あまり堅苦しい章立てにはなっていない。初めにこの街の生い立ちを語り、次は美術館やその収蔵物について、そして街やそこでの暮らしの様子が語られている。といっても、ところどころで重なりあったり脱線したりしており、それが読み物としてもこの本を面白くしているところだろう。で、最初に語られるのがこの街の呼び方。ロス・アンジェルスをL.A.と呼ぶように、ロシア人にとってもサンクト・ペテルブルグは長くて呼びにくいのか、「ピーテル」の愛称がついているそうだ。こういうのは案外と知られていない。アメリカに行って「ロス」といっても???という顔をされてしまうように、サンクト・ペテルブルグを「サン・ペテ」と呼んだり「サンクト」呼ぶのはいかんのだ。地元民ぽく、「ピーテル」と呼ばねばならないのだ。
そのピーテルは人工の計画都市だそうだ。中国や日本では皇帝や天皇が新たな土地に「都」を(人工的に)建設するのは普通のこと。平城京や平安京のように条理を区切って作る。が、ヨーロッパの都市は自然発生的な街を拡充していくパターンが多かったようでピーテルのように何もないところに街を作るのは珍しかった。が、アジアよりだったロシアをヨーロッパの国々と肩を並べる国にしようとしたピョートル大帝が、それまでは小さな村しかなかった辺境の地(ヨーロッパ側の国境に近い土地)に都を建造した。初めは引っ越しを嫌がった貴族や一般の人々も、ピョートル大帝が厳罰をもって臨んだためにやむなく新たな都へと移ってきたそうだ。河口近くの中州地帯に作られたため、自然の川や運河に取り囲まれた水の都でもあるピーテルだが、地盤が悪くて洪水も多発、呪われた街でもある。そのために歴史は短いのに、都市伝説というか幻想物語というか、街に関する伝説的逸話がとても多い。そのいくつかが紹介されているが、そんなことを知っていると街を歩くときにも楽しいだろう。

日本だと京都を語る本や雑誌が山のようにある。それと同じような感覚でロシア人に愛されているのがピーテルなのかもしれない。人工的に作られた首都。そして今では首都がほかに移ってしまった(モスクあ、そして東京)歴史の街。そんな風にして思うと、異国の知らない街だったのになぜか親しみがわいてくる。そして、私の中でいつか訪れてみたい街の一つとなっていたのだ。もちろん、その時にはこの本を読み返してきっちり予習していこうと思う。


サンクト・ペテルブルグ―よみがえった幻想都市

サンクト・ペテルブルグ―よみがえった幻想都市

  • 作者: 小町 文雄
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2006/02
  • メディア: 新書


イヴァン雷帝

イヴァン雷帝

  • 作者: アンリ トロワイヤ
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2002/05
  • メディア: 文庫


るるぶロシア―モスクワ・サンクトペテルブルグ

るるぶロシア―モスクワ・サンクトペテルブルグ

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: JTBパブリッシング
  • 発売日: 2006/03
  • メディア: 大型本


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JOY

「ビーテル」という愛称、、なんだか響きが素敵♪
都市の成り立ちっておもしろそう!!
by JOY (2007-05-12 21:38) 

ぶんじん

JOYさんへ:
街にもそれぞれの「顔」があって、歴史を背負っているんだというのがよくわかります。こうやって本を読んでいくと、行ってみたいところがどんどん増えてきちゃいますよ。
by ぶんじん (2007-05-13 09:37) 

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