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「佐藤時啓 光―呼吸 そこにいる、そこにいない」写美 友の会内覧会 [美術 : 美術展、写真展紹介]

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★ イベント概要

恵比寿ガーデンプレイスにある東京都写真美術館。その友の会のイベントに参加してきました。ご本人(佐藤時啓氏)による解説・トークのイベントでした。

佐藤時啓氏は東京芸大で教鞭を執りつつ、写真家として活動している。元々は彫刻から芸術の道に入ったそうだが、写真を撮り始めても「モノを制作する」という気持ちは変わらずにいるそう。そのためなのだろう、作品はどれも、とても手間のかかる"制作"手法をとっている。時期・年代によって"制作"手法を変えてきた、と言う訳でもなく、並行して同時期に異なった"制作"手法を用いているのも面白い。
今回の展示はそんなわけで、年代順ではなく、"制作"手法別に作品を並べてあった。また、同じ"制作"手法でも被写体の違いによって分類されていて、教授らしく(?)整然とした感じであった。その展示分類はこちら。
  • 光―呼吸 Photo-Respiration
    • Light Panels
    • City Scape
    • From the Sea
    • In the Snow
    • Trees
  • Polaroid Works
  • Gleaning Lights
  • Gleaning Lights 2
  • Wandering Camera
  • Wandering Camera 2


さて、その"制作"手法だが、作品自体を見ても「どうやって撮ったの?」となるものばかり。これは説明を聞かないと厳しいです。今回、ご本人から詳しい解説を聞いたのですが、通常でも解説パンフレットが用意されることになったみたい。
詳しくはそのパンフレットを見ていただくとして、どんな"制作"手法かを簡単に説明すると、
  • 光―呼吸 Photo-Respiration : Light Panels
    真っ暗な場所、もしくは減光フィルターを使って長時間露光(シャッターを開けっ放しに)する。ペンライトで絵を描くように"光を足していく"。光の軌跡を写していく。
  • 光―呼吸 Photo-Respiration : From the Sea、In the Snow、Trees
    減光フィルターを使って長時間露光(シャッターを開けっ放しに)する。小さな手鏡を使い、色々な場所から一定時間、太陽光をレンズに向けて反射させる。これを何カ所(何十箇所)かで繰り返していく。
  • Gleaning Lights
    複数の穴を開けたピンホールカメラを使い、一枚の印画紙に「時間をずらして同じ場所を写す」、「視点を変えて写す」
  • Wandering Camera
    移動式カメラ・オブ・スキュラの原理で大型カメラを作成。360度全周を写したり、そのカメラを設置した地面に像を投影、それを別のカメラで写す。
といったもの。これだけでは何のことかわからないですよね。たぶん、この説明を聞きつつ、作品を観れば「ああ、こういうことか!」と納得してもらえるかと。

本当はこれらを理解してもらった上でないと、次の佐藤さんのトークがさっぱり分からないかもしれないんですが、その点はご容赦を。

★ 解説・トーク

個々のシリーズに対しての解説を紹介します。
昔は鉄で製作をしていた。生きることの意味を探りつつ、自分の行為を記録する感じで製作を行っていた。そんな時、暗闇で懐中電灯の光による軌跡が写真に写ることに気づき、これは「(一瞬一瞬は点としての光なので、軌跡自体は)目には見えないが、写真には残る」意味で、モノを制作することと同じと感じた。

懐中電灯の軌跡シリーズは主に真夜中(真っ暗中)での制作だった。昼間にも制作できることはないかと考え、鏡によるやり方を採り入れた。
海のシリーズは、鏡を持って泳ぎまわり、制作していく。減光フィルターを使って一時間くらいかけて制作している。子どもが生まれたことをきっかけに、進化の長い歴史を考えるようになり、海をテーマに選んだ。日本は海から日が昇り、海に日が沈んでいく。その両方を撮ろうと思った。

デジタルと銀塩の違いを三年間、研究した。結果、photography(光を写すもの)としては同じだと結論づけた。

白神の森に生えるブナは、日本列島がユーラシア大陸と陸続きだった頃に渡ってきた。その悠久の歴史を今に伝えてくれている。そんなところから原始宗教の対象になったのも頷ける。

ピンホールによる作品は、構図に縛られずに撮りたいと思ったから。ペンライトによる作品は、どんな軌跡になるか計算ができた。しかし、鏡は自然相手だし、ピンホールはさらにファインダーもない。
二つ穴を使い、同じ場所で日の出と日の入りを一枚に収めたりした。

テント式のカメラ・オブ・スキュラは風に揺れて像がぶれてしまうこともあったが、石巻の(津波で陸に打ち上げられた)船を写したときはその方がテーマにふさわしくなった。

★ 写真展情報

「佐藤時啓 光―呼吸 そこにいる、そこにいない」展は下記の通り、開催中。

会期 : 2014/5/13(Tue) - 7/13(Sun)
休館日: 月曜日 (祝日の場合は開館。翌日火曜日休館)
料金 : 一般 700円 学生 600円 中高生・65歳以上 00円
小学生以下は無料。友の会会員は団体割引料金(一般 560円)

担当学芸員によるフロアレクチャー
  • 2014/06/06(Fri) 14:00 -
  • 2014/06/20(Fri) 14:00 -
  • 2014/07/04(Fri) 14:00 -

図録「佐藤時啓 光―呼吸 そこにいる、そこにいない」
写美一階のミュージアム・ショップで販売中。A4変形 208ページ  発行:東京都写真美術館

★ 感想

解説を聞く前に作品を観ると、これはなにを意味しているんだろう?いや、その前に何を撮ったのだろう?という疑問が山のように湧いてくる。ペンライトや鏡の作品は、制作方法は別にして何ものかは自分なりに解釈可能。
でも、ピンホールの作品やカメラ・オブ・スキュラのものは何を撮ったのかがそもそも難しい。かといって、抽象画のような訳ではなく、被写体はしっかりと写っている。写真家の視点がどこにあるのかが難しいのだ。だが、まさにその視点がキモだったのだ。時間をずらして同じ場所を見ていたり、見るものと見られるものの視点が同じ一枚に収められていたり、時間と空間を越えた"視線の移動"がそこには写っていた訳だ。なるほど、これは面白い。

そして、どの作品もものすごく手間暇かけて"制作"していることにまず驚き。手鏡を持って波間を漂いながらちょっとずつ光を足していく、ペンライトを振って広い部屋を隅々まで歩き回る、移動式カメラを引っ張っていってその場所に設置する。まさに"制作"作業です。そのパワーに感嘆しました。そして、アンリ・カルティエ=ブレッソンの「決定的瞬間」とは対極にあるような写真もまた同じ写真という表現方法の一つであることに改めて気づかされました。勉強になりました。

ということで、おすすめの写真展です。とにかく、実際の作品を観てもらわないとなんのことやら分からないでしょうから、是非!






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