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「ウパニシャッド」 [読書 : 読んだ本の紹介]

(本棚に眠っていた本を引っ張り出してこようキャンペーン実施中!)

インド哲学にはまったのはいつの頃だったろうか。やはり大学生の時かな。当時は「イン哲は必修科目だ!」なんてことが言われていたものだ。そんなこともあって、何となく買ってしまったこの本だが、長く本棚に眠らせていた。

本書はラジオ講座の講義をまとめ、加筆されて出版されたものだ。といっても、ラジオで放送されたのは戦前。大昔の話なのだが、ウパニシャッド自体が数千年前のものだし、戦後か戦前かはそれほどの違いではないだろう(?)。もちろん、言葉遣いがちょっと今とは違うので、その点は慣れないと読みにくいかもしれない。だが、そんな困難を乗り越えて読み進めれば、中身は非常に判り易いものになっている。構成としては、ウパニシャッドの形成過程やその本質的な考え方を概説した本論と、そこで引用された原典の抜粋が付録として付けられている。著者が本論で指摘しているところだが、ウパニシャッドは単一の書物ではなく、長い時間をかけて語り次がれ形づくられたものである。そのため、どうしても時期によって中身が変わってしまったり、矛盾が生じている点も多い。が、それをも含んだ上で全体を概観し、一つのビジョンを示しているところが本書の優れたところなのだろう。

ウパニシャッドは哲学(書)だ。それまでの素朴な神話や宗教の経典から繋がっているものだが、宇宙の始まりや人間の本性を説くという点で、ギリシャ哲学やとも肩を並べる思想体系となっている。紀元前2000年ころにインドに移ってきたアーリア人たちが作り上げたヴェーダ宗教文学がウパニシャッドを生み出す母体となった。神を祀ったり、祭式の実務を記したり、調伏の呪法であったりしたヴェーダの中で、宇宙万象を描き出そうとした奥義書がウパニシャッドとなっていった。

梵我一如つまりは宇宙の根本的なものと人のうちにある本性とが実は同じものであるという考え方、これが中心となっている。ブラフマン(梵)と呼ばれる宇宙の根源が、人が世界を認識する主体としてのアートマン(我)と渾然一体となっているといった感じのようだが、この辺りはちょっと難解だ。だが、ウパニシャッド(インド哲学)は面白いものを持ち出してこの難問を(何となく)納得させる説明をしている。それが睡眠状態だ。人は寝ているとき、自分の意識がなくなる。正確には睡眠にも二種類あって、夢をみている眠りと完全なる熟睡とがある。後者の際、人は自分の存在を忘れ、個としての自分が消えたかのような状態になる。その時、実はアートマンが世界(宇宙としてのブラフマン)に溶け込み、一体となっているのだ、と。毎晩、寝ている時には人は宇宙との一体感を体験し続けているのだが、起きると忘れてしまうという訳だ。インドでは、「熟睡している人を急に無理やり起こしてはいけない」と今でも(?)されているそうだが、その理由はここにある。急に起こされると、宇宙と一体となっている我が身体に戻るタイミングを逸してしまうというのだ。なるほどねぇ。

古い本ではあるが内容はとても面白く、判り易かった。名著は時代を経ても色あせないということだろう。浅い春の夜の眠りにアートマンがどこぞへ行きっぱなしになってしまった時に読むにはいい本かもしれない。


ウパニシャッド

ウパニシャッド

  • 作者: 辻 直四郎
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1990/07
  • メディア: 文庫


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コメント 7

RangerMaeda

それでも僕には難しそうですねー
でも、僕は中国の菜根譚を時々開きます
by RangerMaeda (2007-03-30 20:08) 

ぶんじん

Rangerさんへ:
中国も四千年の歴史。人生訓もたんまりありますよね。
by ぶんじん (2007-03-30 20:39) 

mamire

催眠状態ですか。なるほど。
実は、娘が寝ぼけ娘で、夜放浪することがしばしばありました。
するとですね、うちのおばば様は、寝ぼけている人に声をかけるなと言うのです。
つまり、ウパニシャッドの教えですね。
う~、おばばさまは、哲学者だったのかと、尊敬の念を持ちました。
by mamire (2007-03-31 08:17) 

ぶんじん

mamireさんへ:
眠りに落ちまた目覚めたとき、寝る前の自分と目が覚めた後の自分とが同じなのか疑問でなりません。おばばさまに聞いてみたいですね。
by ぶんじん (2007-03-31 21:23) 

JOY

昔読んで?途中で投げ出しました^^;;
今ならもう少し読めるかしら。。
by JOY (2007-04-03 13:55) 

ぶんじん

JOYさんへ:
をを!同志!!一緒にインド四千年の奥義を極めましょう!!!
by ぶんじん (2007-04-03 21:18) 

アーリマン

昔に得た宇宙との一体感を最近思い出して人生が楽しくなってきた今日この頃です。中学生だったか、高校生だったかの時に、その宇宙との一体感を表現する言葉に梵我一如という表現がお気に入りでした♪
今日夢に見たのです。ブラフマン(梵)という字が頭に浮かび、そして目覚め、アーリマンと頭に浮かびました。そうそう!これだよ!梵我一如!昔の感覚!と、一人遊んで楽しくなって、ウパニシャッド哲学と検索に打ち込み、このページにたどり着きました。楽しくってしょうがないです♪あ、ちなみに私はきちがいじゃないですw皆に祝福あれ~♪
by アーリマン (2007-08-22 10:04) 

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