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泉屋博古館分館 「金文 中国古代の文字」展 三千年前の漢字のルーツをこの目で見られます [美術 : 美術展、写真展紹介]

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泉屋博古館分館で開催中の「金文-中国古代の文字-」展内覧会に参加してきました。
例によって特別な許可をいただいて写真撮影しています。通常は撮影禁止です。

★ 展示内容

今回の企画展終了後、二年間、泉屋博古館分館はリニューアル工事のために休館となる。そんな長期休館前最後の企画展は、住友コレクション 泉屋博古館が世界に誇るコレクションが青銅器を展示したものだ。しかも、スポットを当てるのは青銅器そのものではなく、そこに書かれた(正確には、鋳造によって鋳込まれた)古代の中国文字たちだ。漢字の発祥というと甲骨文字を思い浮かべるが、それと同時に作られた(書かれた)のが、青銅器上の文字「金文(きんぶん)」。
公式サイトの説明によると、
今から三千年前の商周時代、様々な造形をもつ青銅器が盛んに製作されましたが、その表面には古代の文字が鋳込まれていました。金文と呼ばれる、現在の漢字の祖先にあたる中国古代の文字は、平面上に「書かれた」ものではなく、鋳物の技術によって立体的に「造られた」ものでした。 本展では青銅器にあらわされた文字、金文の世界をご紹介するとともに、復元鋳造レプリカやその鋳型を併せて展示することで、鋳物の技術としての文字=金文をわかりやすくお伝えします。
とのこと。
展示構成は以下の通り。
  • 商時代の金文
  • 西周時代の金文
  • 春秋戦国時代の金文
  • 秦漢時代以降の金文
  • 参考展示 金文復元鋳造
  • 参考展示 芦屋釜の里

以下、学芸員さんの説明を交えてご紹介。

商の時代の前期、青銅器には部族のマーク(紋章のようなもの)が鋳込まれ始めた。それはそれぞれの部族における祖先神を祀る際に用いられるようになっていく。このマークは、いわゆる「象形文字」で、“魚”だの“虎”だのを表した物だった。そしてこのマークから「文字(漢字)」へと発展していくことになる。

これは「戚(せき」と呼ばれる斧として使われた青銅器。柄の部分に鋳込まれた紋様が「長(髪の長い人物)」を表している、と解釈されている。
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甕の一種。金文は不思議なことに、見にくい容器の内壁や底に鋳込まれることが多くなる。その理由は定かではない。
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西周時代(B.C.1046 - B.C.249)になると、それまで数文字程度の内容だったものが、急に“長文”のちゃんとした文章(主語、述語などの文法構造を持ったもの)が鋳込まれるようになる。これは、主に鋳造技術が進化したためで、このように長い文章も書く(鋳込む)ことが出来るようになったからだ。
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上記の説明にもあるように、今回の展示では“本物”の青銅器の他に、当時のやり方を推測して実際に作ってみた“レプリカ”も併せて展示している物が多数ある。
また、青銅器本体の文字は読みにくいものが多いので、拓本や拡大写真も並べられている。それらを見比べることによって、展示品をより深く知ることができるようになっている。
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鋳込まれた金文を現代語訳した全文は図録に収められている。展示品横のキャプチャーでも抄訳が書かれている。
祖先神の名前を記すことから始まった金文だが、この時代になると「XXX(自分)は、YYY皇帝から「。。。。を管理せよ」と命令を受けた。それを記念してこの器を作り、祭を行った。ZZZ年 AA月」といった、自分の功績を記すものがほとんどとなる。
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金文を鋳込まれた青銅器には、祭祀や日常用品として使われた器の他に、楽器も多く出土している。金文には「祖先神のXXXを喜ばせるためにYYYがこれを造った」と言った内容が書かれている。
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大きさや形状によって音階が異なるため、多くの種類を製作して用いることによって「音楽」を奏でることが出来たようだ。叩く場所によっても音階が異なるとのこと。
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この金文をどのように鋳込んだのか、その製作方法は三十年来の定説があった。ただ、それは「再現実証」が行われたものではなかった。今回の企画展を企画した学芸員さんは新たな説を提唱し、さらには今回の展示の数々にあるように、実際に再現実験を行い、自説の正しさを実証したのだ。その過程も参考出品として展示されている。
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筆によって粘土で文字を書いていき、それを何度も繰り返すことによって文字部分を凸状に盛り上げ、鋳型とした、と言うのがその説だ。それまでは、動物の皮を彫って型を作った、というのが定説になっていたが、確かに新設の方が「文字を正確に書く」ことができるだろうし、説得力がある。
学会で発表したのがこの内覧会の前の週だったそうで、議論が紛糾して大変だったそうだが、数年の後にはこちらが定説になるだろうと学芸員さんは自負していた。
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春秋戦国時代の金文は、それまでは統一王朝の皇帝が独占的に行っていた青銅器製作を、各地の王が独自に行っていくようになる。そのため、金文の内容も統一的様式がなくなっていき、より自由な文章が書かれるようになっていった。
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また、それまでが儀礼や記念品として作られていた青銅器(と金文)だが、この頃になると“実用品”や実用的内容が書かれたものが出てくる。その一つが「錘」。秦の始皇帝が度量衡の統一を命じたが、その“原器”として錘が青銅器で造られ、各地に配られた。そこには金文で「この錘で目方を統一せよ。地方によって異なっている時はこれに合わせろ」と言った内容が書かれていた。
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装飾品、記念品としてももちろん青銅器は造られた。秦漢時代以降になって多く造られたのが「鏡」だ。「魏志倭人伝」に「魏の皇帝が卑弥呼に銅鏡百枚を下賜した」旨が書かれているが、それが三角縁神獣鏡と呼ばれるものだったようだ。こちらが三角縁神獣鏡。
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今回、新説を元に復元製作されたレプリカに実際に触る機会を得ました。鋳込まれているので当たり前ですが、文字部分は凹んでいます。現代技術ならば、青銅器を造ったあとから削って文字を書くことは簡単でしょうが、三千年前にはそんなことはできません。最初から鋳型を造って鋳造したのです。
なお、今回の企画展に併せて何度か開かれるギャラリートークでは、このサンプルに触ることが出来るそうです。
詳しくは公式サイトの案内を見てください。
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★ 感想

恥ずかしながら「金文」のことは今回の企画展で初めて知りました。それまでは漢字(文字)の始まりというと甲骨文字(だけ)だと思っていたんです。そこからもう、勉強になりました。さらには青銅器の造られた時代や、その形状・用途もよく知らなかったので、もう初めてのことばかり。
それに加え、学会で新説を発表したばかりの内容(金文の製作方法)まで含まれていて、いやぁ恐れ入りましたという感じ。さすがは住友コレクションですね。
そもそも、三千年も前のものがポンポンといくつも展示されているんですからそれだけでも凄いですよ。しかも、非常にきれいな状態で保存されていて、金文を直接読むことも出来るんですから。といっても、もちろんなんて書いているのかは判読できないので、「読む」と言うよりは「見る」だけでしたが。
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そして、学芸員さんの説明も面白かった。文字通り“ホット”な話題だったので、淡々とした喋り口調ながら、中身は熱いものでした。詳しい内容は、販売中の図録に載っています。そうそう、この図録、内容の割にはとても安価。税込1,500円なり。泉屋博古館分館の図録ってなぜか(?)コストパフォーマンスがいいんですよ。作品の写真の他に解説内容がしっかりしていて、分厚い。それでこの値段。思わず買ってしまい、読んじゃいました。
美術展の図録って、買ってきてもパラパラと眺めることはあっても“熟読”することってほとんどないのですが、今回はすぐに解説文を読んでしまいました。勉強になりましたよ。

ところでそんな金文ですが、「なんと言う文字なのかはよくわからない」ものも多いのだとか。部首(っぽい絵柄)に分解し、現代の文字から推定して元の古代文字を再構成、なんと読むかを推定するといった分析をするそうですが、学芸員さん自身も「結果として読めません、というのもあります」とのこと。確かに、部首が五個・十個と組み合わされた“漢字”や、今は使われていない部首だとよくわからんですよね。そんな地道な研究の成果が今回の企画展ということ。

内覧会に行く前は、地味なテーマだなぁと高をくくっていたんですが、さにあらず。青銅器マニアだけではなく、私のような一般人でも「漢字のルーツ」を実際に見られる機会と言うことで、非常に面白い物でした。知的好奇心をくすぐるという意味で、私の中では今年一番の企画展だと思います。
おすすめですよ。

★ 美術展情報

「金文 中国古代の文字」展は下記の通り、開催中。






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コメント 2

JUNKO

知識がないと見どころが分からないですよね。
by JUNKO (2019-11-10 19:09) 

ぶんじん

JUNKOさんへ:
内覧会やギャラリートーク、もしくは書籍などでちょっと知識を仕入れると、見方が変わりますね。背景を知っていると、同じものを見ても何倍も楽しめます。
by ぶんじん (2019-11-10 22:28) 

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