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静嘉堂文庫美術館「名物裂と古渡り更紗」展 パッケージにもここまでこだわる美意識がすごい [美術 : 美術展、写真展紹介]

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静嘉堂文庫美術館で開催中の「名物裂と古渡り更紗」展内覧会に参加してきました。
例によって特別な許可をいただいて写真撮影しています。普段は一部エリアを除いて撮影禁止ですので、ご注意願います。

★ 展示内容

今回の企画展を担当した静嘉堂文庫美術館主任学芸員の長谷川と、染織研究が専門の五島美術館主任学芸員の佐藤さんによるトークショーの内容を踏まえ、展示内容をご紹介。

今回の企画展は、茶道具の茶入れ、、、ではなく、それを包む布などの染織品を集めたもの。静嘉堂文庫美術館で染織をテーマにした企画展は初めてだそうです。公式サイトの説明によると、
わが国特有の発達をみせた茶の湯文化、そして文人の嗜みとして流行した煎茶文化の世界では、中国をはじめ海外から広く舶載された文物を用い、大切に伝えてきました。その内には「金襴(きんらん)」「緞子(どんす)」「間道(かんどう)」など、今日“名物裂(めいぶつぎれ)”と総称されているような高級な染織品も含まれ、それらは室町時代以降の唐物賞玩のなかで、絵画・墨蹟の表具裂や、茶入を包む袋、「仕覆(しふく)」(仕服)となり、茶人たちの鑑賞の対象となりました。
また江戸時代以降、型や手描きによる草花・鳥獣・幾何学文様などを色鮮やかに染めた木綿布“更紗(さらさ)”が、ポルトガルやオランダの南蛮船や紅毛(こうもう)船、中国船などによってもたらされると、これも数寄者たちを大いに魅了しました。とりわけ江戸時代中期頃までに輸入されたインド製更紗の一群は、後世“古渡り更紗”と呼ばれ、茶道具では箱の包み裂(つつみぎれ)に、煎茶道具では、茶銚(ちゃちょう)・茶心壺(ちゃしんこ)などの仕覆や敷物として重用されました。
とのこと。

容器を包むため“だけ”のものなのに、わざわざ高価な古い布を中国などから買い付け、しつらえる。その拘りが美意識の高さ、趣味人の粋を感じさせます。
大名だったり、江戸時代の大商人だったり、近代になると岩崎家のような財界人だったりが作らせたり、コレクションしたり、贈答品として贈りあったりしたそうです。と言っても、今回のように美術展が開催される訳ではなく、時折開かれる茶会でお目にかかるだけ、と言うのがほとんど。名品と言われるものがどんなものか知りたくて、誰もがうずうずしていたようで、絵入りの解説本(「雅遊漫録」や「古今名物類聚」など)が出た時はベストセラーになったのだとか。今回の展示会でも、それら“カタログ本”も合わせて展示されています。
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展示構成は以下の通り。
  • プロローグ ~至宝を包む~ 国宝「曜変天目」・重要文化財「油滴天目」の仕覆
  • Ⅰ ~名物裂、古渡り更紗を愛でる~ 「唐物茶入」の次第から
  • Ⅱ ~茶入・棗を包む~ 織りの美、「名物裂」の世界
  • Ⅲ ~茶銚・茶心壺を包む~ 染めの美、「古渡り更紗」の世界
  • エピローグ 染織 ~憧れの意匠の広がり~

静嘉堂文庫美術館と言えば、至高のお宝(収蔵品)が国宝の「曜変天目」茶碗。そして、それに並んで重要文化財の「油滴天目」茶碗。今回はその両者が展示されています。そして、もちろん、それらを包んでいる仕覆も併せて展示。曜変天目茶碗の仕覆は明の時代の布が使われていて、稲葉家から岩崎小弥太が譲り受けた時に新たに作ったものだそうです。
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茶道具には個々に愛称が付いているものが多く、特に有名人が使っていたものにはその人の名前が付いていたりするそうです。千利休が使っていた「利休物相(りきゅうもっそう)」と呼ばれる茶入れ(別名「木葉猿茄子」)は徳川家光を経て伊達政宗に下賜され、その後は伊達藩に代々伝わったもの。
茶入れを包む仕覆、それを入れる棗(なつめ)と棗を包む布、それらを入れる箱とそれを包む古渡り更紗・・・と、幾重にも重なった造りになっています。
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仕覆に使われた布の中には元の時代(十四世紀)のものもあり、大事に大事に使われていた(観賞されていた)。かの徳川家康も、大坂冬の陣で灰燼に帰した大阪城から茶道具を“発掘・回収”するよう、部下に命じたほど。
大名たちはこぞってコレクションをしたが、今回の企画展はそんな大名たちが見たら目を丸くするほどの至宝が一堂に集まったもの。これだけの名品が揃って見られる機会はそうそうない(十年に一度?)だろう。
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清の皇帝が「これからは抹茶じゃなくて煎茶だ」と命じたことから一気に広まった(らしい)煎茶の文化。日本でも幕末から明治にかけて大いに流行し、それまでの抹茶による茶道に新たな潮流を生み出した。そこで使われたのが急須や、錫製の茶入れなどの茶道具。当時の大商人・財界人たちのたしなみとして流行し、それら用には古渡り更紗を使った仕覆が多く作られた。
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★ 感想

茶道を嗜む人にはお馴染みの話なのだろうけど、その素養が全くない私には初めて聴く・見る話ばかりで、とても興味深かった。学芸員のお二人の物腰柔らかな、そしてとにかく上品な喋りに聴き入ってしまいました。

展示品はどれも初めて見るものばかりでしたが、実際、静嘉堂文庫美術館としても初出しのものばかりだそうです。膨大な収蔵品が収められていたものの、染織の専門家が不在だったこともあり、なかなか研究・分類が進んでいなかったとのこと。他の美術館などからの協力も得て、やっと今回の企画展にこぎ着けたのだそうです。学芸員さん達の苦労にも感服するとともに、それ以上に歴代岩崎家当主たちが、学芸員も鑑定に困るほどの多種多様な美術品を収集していたんだという目利きの凄さ(と、もちろんその財力)に驚かされたのでありました。
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さて、馴染みのない染織品の企画展だったんですが、名物裂や古渡り更紗の模様の多彩さ、デザイン性の高さに惹かれちゃいました。(花の)鶏頭や葡萄、中には栗鼠(リス)をモチーフにしたものまであって、意外と可愛らしかったりして親近感も沸きましたよ。リスの模様なんて、かしこまった茶席で大名たちはどんな顔をして見ていたんでしょうか。ニヤけそうになるのを我慢してたのかな? なんてことを想像したりして楽しめました。

作品鑑賞には単眼鏡が必須かも。名物裂、古渡り更紗の模様はとても細かいものが多いし、織り方の構造を見るには必要でしょう。
じっくり、時間をかけてみてください。

★ 美術展情報

「名物裂と古渡り更紗」展は下記の通り、開催中。






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JUNKO

折角の上京も孫のお相手で自由時間がなかったです。
by JUNKO (2019-11-03 19:42) 

ぶんじん

JUNKOさんへ:
それはそれで楽しい時間を過ごしたと言うことですね。
by ぶんじん (2019-11-03 20:58) 

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