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「存在のない子供たち」 [映画の感想]

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東洋経済オンライン独占試写会で一足先に観てきました。

★ あらすじ

レバノンに住む少年ゼイン。彼の両親が出生届を出していないため、彼は自分の誕生日すら知らない。身分証明書の類を何も持っていないので、学校に行くこともできない。法律上、彼は“存在しない”子供なのだ。
実は、彼の両親も同じ境遇。つまり、一家揃って“存在しない”人間なのだ。彼らは差別され、満足な職に就くこともできない。そのくせ、子だくさん。兄弟・姉妹たちは日々、路上で物売りをさせられたりと、一日中、両親から強制的に労働を強いられていた。挙げ句に十一歳の妹サハルは、大家(の息子)に強制的に結婚させられてしまうのだった。妹のサハルを可愛がっていたゼインはそれを機に家出をしてしまう。

もちろん、家出をした先に待っていたのはさらに過酷な現実だった。すぐに食べるものに困る始末。仕事を得ようにもすぐに見つかる訳はない。そんな時に出会ったのが、エチオピアから出稼ぎに来ていたラヒルだった。彼女も不法滞在者で、闇ルートで偽の身分証明書を手に入れ、遊園地のレストランなどで働いて暮らしていた。しかも彼女には赤ん坊がいた。当局にそれを知られては、すぐに不法滞在がばれ、強制帰国となってしまう。彼女も社会から疎外され、隠れるように生きていたのだ。
互いに似たような境遇のゼインとラヒル。何も語ることもなく、互いに助け合うようになっていく。ラヒルが働いている間、ゼインは赤ん坊の世話をするようになったのだ。

だが、そんな小さな、穏やかな日々も長くは続かなかったのだ。

★ キャスト&スタッフ

  • 出演 : ZAIN AL PAFEEA, YORDANOS SHIFERAW, BOLUWATIFE TREASURE BANKOLE, KAWTHAR AL HADDAD, FADI KAMEL YOUSSEF, CEDRA IZAM, Nadine Labaki
  • 監督 : Nadine Labaki
  • 脚本 : Nadine Labaki
  • 製作 : Khaled Mouzanar

★ 感想

レバノンが舞台の映画って、ほとんど馴染みがない。出演している俳優さん達も全く名前を聞いたことがない。だが、それもそのはず、ほとんど全ての出演者が“素人”で、しかも役柄と似たような境遇の持ち主なのだそうだ。主人公のゼイン(本名もゼイン)も、シリア内戦の際にレバノンのベイルートに逃れてきた難民で、教育の機会にも恵まれず、十歳から働いていたのだそうだ。今は家族ともに北欧に移住しているそうだが、そこで監督に見いだされたのだとか。両親役や妹役も然り。エチオピアからの不法滞在者(ラヒル)役の女性もそうで、撮影中に不法滞在の罪で勾留されてしまい、監督が保証人になって出てくることが出来たそうです。
彼らの演技は素人とは思えないほど自然。それは、彼らの背負う現実がなせる技で、ある意味、この映画はドキュメンタリーに近いのかも。

主人公のゼインの眼が良い。あんなにも虚ろな目は見たことがない。それでいて自分を産んだ両親を訴え、ラヒルの赤ん坊の面倒を見続ける力強さ、決意、知性を持っている。その演技に圧倒されると言うよりも、あまりに自然なその姿に視線を外すことが出来なかった。その目に魅せられ、引きこまれてしまった感じだ。二時間を越える作品だが、その間、見入ってしまった。
では、その姿に涙したかというと、それはなかった。なんと言うか、むしろ“心が渇いていく”ような、なんとも言えない感情に包まれた。同情とも違う、手助けすることも叶わない無力感。描かれている世界がとてもリアルで、感情移入さえも出来ない感じ。なにせ、こんな貧困や疎外感(自分の出生届もされていないなんて)は全く経験がないのだから。

ゼインはなぜ、あんなにも強いのだろうか。親からの愛情を全く知らずに育ったのに、なぜ妹やラヒルの赤ん坊を守ることまで出来るのだろうか。大勢のイスラム教徒たちが祈りを捧げている横で、ゼインはいつもの虚ろな眼差しでどこかを見ている。辛い日々だけを自分に与える神は、彼には必要ないのだろう。神も仏もないこの世界を、彼はどのように生きていくのだろうか。

観終わったあとにズシリとくる感じだ。観ている時はただただ話に引きずり込まれていて、考える余裕さえなかった。格差、貧困、児童虐待などなど、他人事に非ず。自分のために、そして何より子供たちの未来のために、観ておくべき作品だ。

★ 公開情報




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JUNKO

私も最近見る映画はなぜか重いものが多いです。
by JUNKO (2019-07-10 15:24) 

ぶんじん

JUNKOさんへ:
世の中、重たい話が増えたと言うことでしょうかね。
by ぶんじん (2019-07-11 06:56) 

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