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智美術館 「川瀬忍 作陶50年の間」展 赤や白やピンクと、青磁器って青色だけじゃないのね [美術 : 美術展、写真展紹介]

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智美術館 - Musee Tomoで開催中の「川瀬忍  作陶50年の間」展 ブロガー向け内覧会に参加してきました。
例によって、特別な許可をもらって写真撮影しています。通常は一部作品を除いて撮影NGです。

★ 展示内容

今回の企画展は、三代続く陶芸一家に生まれ、十代で作陶の道に進んで以来、現在まで活躍を続ける川瀬忍さんの作品展です。
以下、学芸員さんによる解説を交え、ご紹介。

展示構成は、単に年代順に並べるのではなく、作家の“創作のdriving force”というか、動機・テーマといったものごとに集めているそうです。
  • 茶碗への取り組み
  • 自然界からの閃き
  • 古の美に学ぶ
といったもの。

● 茶碗への取り組み

上記の通り、作家は若くしてこの道に入ります。親から(祖父から?)、「これを真似て作って見ろ」といった感じで言われ、宋の時代の青磁器を渡されたのだとか。以来、そんな昔の作品を模倣してみたり、形や色(釉薬の工夫)をさまざま試してみたり、修行の時期(?)には試行錯誤を重ねていったそうです。

青磁器は、きっちりと釉薬を塗り、傷はもちろん、ムラ一つないものが良いとされる、高度な品質を要求されるものなのだそうです。そんな“縛り”から解放されたくて作ってみた作品も並んでいます。わざと釉薬が掛からず、土が見えているなんてやつ。
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形状も、厚みを持たせてみたり、ふっくらとしたフォルムだったり。
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青磁の青は、釉薬に鉄分を混ぜることによって生まれるのだそうです。その鉄分の配合や、焼き方によってさまざまな色や表情を見せるようになります。
写真では分かりにくいですが、その辺りを色々と試していて、色合いが微妙に異なる作品が並べてあります。確かに、真っ白と言えるものがあったり、青でも濃さが違ったりと色々。
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釉薬に銅を混ぜると赤系統の色が出せる。材質も変えて色々とチャレンジ。
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● 自然界からの閃き

作家の創作作品は茶碗だけではありません。陶器の器という枠はギリギリ守りつつ(ちょっとはみ出している?)、新たなフォルムを生み出すべく、挑戦しています。
そこでインスピレーションを得ているものが“自然界の中にある形”。動物だったり、植物だったり、色々なものからその造型の美を見出し、自らの作品に取り入れています。

淡水のエイ(あの、ひらひらと泳ぐエイです)を見に、わざわざブラジルまで取材旅行に行った作家。海にいるエイは菱形というか変形五角形というか、なかなかに難しい形。でも、淡水に住むエイにはまん丸の奴がいるのだそうです。「これならば轆轤でひける!」と思った作家は、早速その形を取り入れたのでした。
まずは、例の螺旋階段スペースに二匹がお出迎え。(ぶれちゃった。ごめんなさい)
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ちゃんと目玉とおぼしきものまで表現されていますよ。
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あらあら。ついには泳ぎだしてしまいました。。。
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植物の花や葉っぱは、造形美という点では非常に面白いものがありますよね。あと、揺らめくオーロラをイメージした作品なんてのもあります。
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● 古の美に学ぶ

昔の作品を模してみたものは“オリジナリティ”の点で自分の作品として世に出すのは如何なものかと言うことで、基本的にはこれまで非公開でした。が、今回、この企画展を開催するにあたってそんな秘蔵(?)の作品群も多数、出品されています。

三本脚の陶器ってよくありますが、通常は(?)普通のお椀を作り、そこに脚を別パーツとしてくっつけるのがよくある製造プロセス。でも、古の作品の中には、円筒の端を三方から絞ってくっつけ、三本脚を一体成型したものがあります。その形、作り方を知った作家は自分の作品に取り入れます。
手前が古いもの、奥の奴が作家の作品です。
ちなみに、エイの作品の隣には、どこまでこの三本脚を長く伸ばせるかに挑戦したかのような作品も並んでます。震度2くらいの地震でも倒れちゃいそう?!
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奈良の薬師寺白鳳伽藍復興・修復工事の際に東塔も解体され、基壇(土台)の土が大量に掘りかえされたのだそうです。それは、奈良時代の土が突き固められてできたもの。廃棄するにはもったいないということで、陶芸家に寄贈されたのだとか。
その土を使って作家はいくつかの作品を作っています。といっても、不純物も色々と混ざっているし、普通にこねてしまってはただの粘土になってしまい、元の色合いがなくなってしまう。ということで、ぎゅっと押し固めるだけにして、プレートを制作することに。今回の展示では茶碗などの作品を置く土台として利用されています。
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基壇の土は粘土、砂、砂利が混ざったもの。作家はそれが現代のコンクリートと同じじゃないかと気が付きます。だからこそ千年以上の長きに渡って伽藍を支えられたのでしょう。
そんなあたりからインスピレーションを得たのでしょうか、ピラミッドのような作品も。てっぺんに乗っているのは仏舎利を入れる器です。でも、色合いと言い、形と言い、ドラクエのスライムに瓜二つ。。。
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銅を混ぜた釉薬によって赤というか、ピンクというか、何とも言えない色合いになった花瓶。過去からの技術・製法から学び、さらにそこから創意工夫を進めて行ったものですね。
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散華をイメージした作品。散華(さんげ)とは、仏を讃えるために花びらをまくこと。さらにはオブジェとして、欠けて廃棄された陶器片が床の砂に埋もれていたりして、なかなかいい雰囲気。
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★ 感想

今回の企画展の作品チョイスや展示の仕方には作家さん自身の意見や意思も多く採り入れられているようです。
ウェルカムコーナー(?)には、ご自身の名前「忍」の文字が偶然書かれていた古代中国の作品(のかけら)がお出迎え。表札代わりなのだとか。
そして、最後には蛙の置物が。こちらはそのまま「無事にお帰りください」というメッセージらしいです。なかなかお茶目な一面があるんですね、作家さんは。
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形も面白いのが色々あったんですが、色合いの違いがさらに豊富。私は赤、ピンク系統のが気に入りました。いやぁ、きれい。青磁器って、ピカピカとした輝きを持っているんですが、赤・ピンクの作品群はそのピカピカがなんというか艶っぽい感じ。これでワイングラスを作ってくれたらうれしいな、などと想像してしまいました。
釉薬に混ぜた銅の酸化作用による色合い、なんていう知識も面白いですが、そんな蘊蓄は抜きにしても「これはきれいだ」、「不思議な色だなぁ」、「エイはリアルすぎてちょっとキモい?!」というだけでも楽しめますよ。五十年間の作家さんの努力と研鑽に対しては少々不遜ではありますが、そこは見る側の特権です。自分が好きなのはこれだなぁ、とお好みを見つける感じで観てみたらいいんじゃないかなと思います。

ということで、今回もおすすめの企画展です。

★ 美術展情報

「川瀬忍 作陶50年の間」展は下記の通り、開催中。






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