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「ターナー 風景の詩」展 : ターナーの作品だけ120点が展示 画風の変遷が面白い [美術 : 美術展、写真展紹介]

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東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館で開催されている「ターナー 風景の詩」展の内覧会に行ってきました。
例によって、特別な許可をもらって写真撮影しています。

★ 展示内容

公式サイトの説明によると、
イギリスを代表する風景画の巨匠、ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー(1775~1851)の展覧会です。穏やかな田園風景、嵐の海、聳(そび)え立つ山岳など、自然の様々な表情を優れた技法で表現したターナー。独特の光や空気感に包まれたターナーの風景画は、フランスの印象派をはじめ、多くの芸術家に影響をあたえました。本展覧会はターナーの水彩、油彩、版画作品約120点を、「地誌的風景画」「海景‐海洋国家に生きて」「イタリア‐古代への憧れ」「山岳‐あらたな景観美をさがして」という4つの章でご紹介し、その核心と魅力に迫ります。
とのこと。


以下、スコットランド国立美術館群 総館長と郡山市立美術館 学芸員のお二方によるギャラリートークの内容も交え、ご紹介。

ターナーは生涯で油絵300点、水彩画2000点の作品を残している。今回の企画展は全てターナーの作品で構成。(実は一枚だけ別人。なぜなら、他の画家が描いたターナーのカリカチュア的肖像画が入っているので・・・)。
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● 第一章 地誌的風景画

当時、画家のパトロンたちは自宅、邸宅の絵を描かせた。もちろん、“記録”としての意味合いが強いものだ。だが、ターナーは記録としての作品ではなく、それを芸術に昇華させたのだ。「ソマーヒル、トンブリッジ」もそんな一枚だ。

ウィリアム・ベックフォートもそんなパトロンの一人だった。ターナーは彼のために水彩画で邸宅を描く。彼は少々エキセントリックな人だったようで、ゴシック教会のような邸宅を建ててしまったのだ。そのため、その絵はまるでどこかの教会を描いたような作品になっている。
残念ながら建物自体は二十年で倒壊してしまった。だが、ターナーの作品として今も残っているのだ。

ターナーは“頼まれ仕事”にも芸術性を与えるとともに、そこに市井の人びとの暮らしをも描き込んでいた。ターナーはよく、労働者を描いている。

エジンバラとスコットランドの風景の水彩画も多く描いている。Scottの本の挿し絵も描いている。
「コールトン・ヒルから見たエディンバラ」は、丘の上から街を俯瞰している。橋の先には監獄だった建物が見えている。
ランドマークとなる建物を分かり易く描いているこの作品。当時は“観光ガイド”的な役割を持っていた。

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● 第二章 海景 海洋国家に生きて

圧倒的な力で猛威を振るう自然と、人間の対比を描いた作品群が並ぶ。逆巻く波に翻弄される小舟。だが、人々は翻弄されるだけではない。波を乗り越えるべく、巧みに船を操っている。ターナーは自然の驚異とともに、自然に抗う人びとの姿にも惹かれていた。
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ビニエットと呼ばれる書籍の挿し絵もまた別の形式。ドラマチックなシーンを、丸くくりぬいたような形にして描いているのだ。
ターナーにとって版画は収入源だった。トーマス・キャンベル(詩人)の挿し絵も描いているが、残念ながら詩人は世の中から忘れられていき、ターナーとその作品だけが今も残っている。

ターナーはモノクロの印刷でも、原画はフルカラーで描いている。そんな点にも、彼の拘りが感じられる。
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● 第三章 イタリア 古代への憧れ

晩年は画風が変わり、風景が光に溶け込んでいるよう。若い頃は細密な描き方をしていたが、イタリア旅行をして大きく画風が変わったのだ。イタリアの明るい光にインスパイアされた作品を多く描いている。

イギリスではターナー作品を遺贈する伝統がある。コレクターが余命幾ばくもないとなると、国に寄付することもある。中には、寄贈にあたって条件を付ける人も。その条件とは「寄贈した水彩画は一月の一ヶ月間だけ、美術館での展示を許可する。他の月はNG」というもの。水彩画に合うのは一月の淡い陽の光だけだから、と言うのが理由だそうだ。ターナーの作品も素晴らしいが、コレクターも負けずに粋な人がいたようです。
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● 第四章 山岳 あらたな景観美を探して

嵐の海などを題材に自然を描いていたターナーだが、晩年近くになるとイングランド、スコットランド、ウェールズの山岳風景に新たな自然の美しさを見出していった。
そこでは、人々はもちろん、建物なども小さく絵が描かれ、それに比して山々や湖はどーんと存在感たっぷりに描かれている。

ここでも「スクレーピングアート(指の爪で引っ掻き、白を強調)」などの手法を使い、老いてもなお創作欲は健在のようだ。それでいてロマン主義の伝統にも則っている。そんな作品群は印象派の画家たちにも、そして明治時代の日本の画家にも大きな影響を与えた。

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★ 感想

ターナーの印象ががらりと変わりました。まあ、私が不勉強で、一部の作品しかよく知らなかったからなのですが。
ターナーというと、渦巻く波に、モクモクと空を覆う灰色の雲、そして帆船。それが三種の神器じゃないですけど、定番のモチーフというイメージでした。印象派にも影響を与えたという、淡い光に包まれた作品も知ってはいたけど、なんか印象に残っていなかった。とにかく、あのモクモク雲のインパクトが強すぎたからでしょう。
でも、若い頃の作品は全く違っていたんですね。画家が何度か画風をがらりと変えるというのはあることですが、まあ、ずいぶんと違っていること。

絵画の“職人”としてスタートしたターナーさん、若い頃は“観光ガイド”や“ご当地名所図会”的な作品が多かったようです。そして、やたらと細かい。建物にしろ、そこを行き交う人々にしろ、細部にまでこだわって描かれています。ガイドブックとしては確かに良さそう。すぐに、「この場所だ」と分かるでしょうから。
でも、それでいてただの記念写真的構図ではなく、ダイナミックで雄大な雰囲気の景色が多く、風景画としても確かに素晴らしい。できる職人だったという訳か。商才に長けていたとも言えるかな?!

ギャラリートークでも触れられていましたが、色々な技法を駆使したことも画風が変わる要因だったのかも。展示作品横に張られた、作品のタイトルや作成年代などを書いたパネル。あれにはどんな技法で描かれたかも書かれているのですが、その種類がやたらと多い!「エッチング」は分かるとして「メゾティント」「アクアティント」「ライン・エングレーヴィング」「スクレイピングアウト」「ストッピングアウト」などなど。。。。芸術的表現を高めるためか、顧客ニーズに合わせようとしたのか、はたまた、ただの新しもの好きだったのか。とにかく色んな技を駆使しています。そのため、版画作品もずいぶんと印象の異なるものが並んでました。

大きな作品もあるんですが、挿絵画などはとても細かなものばかり。一枚一枚、見入ってしまいます。単眼鏡を持参するのもいいかも知れません。作品数も多いし、気合いを入れて観に行ってくださいな。
いやぁ、面白かった。そして、勉強になりました。

★ 美術展情報

「ターナー 風景の詩」展は下記の通り、開催中。






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コメント 2

JUNKO

ギャラリートークではいろいろなお話が聴けて面白いですね。
by JUNKO (2018-04-25 13:04) 

ぶんじん

JUNKOさんへ:
総館長さんの英国式ジョークが渋かった!
by ぶんじん (2018-04-25 17:19) 

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