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「9次元からきた男」 宇宙の始まりの謎に迫る、科学エンターテインメント [映画の感想]

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WinmdaArtPRさんの招待で、日本科学未来館 (Miraikan)で行われたプレミアム試写会に参加してきました。

★ あらすじ

物理学者たちはその男を追い求めていた。奴の気配はいつも感じている。だが、なかなか捕まえることができない。その男のことを物理学者たちは「T.o.E.(トーエ)」と呼んでいる。
その男が現れたとの情報を得て、彼らは急行する。だが、その尻尾、いや、マフラーの“糸”を掴んだはずだったのだが、男はぱっと姿を消してしまったのだ。どこに行ってしまったのだろうか。「彼は、我々の三次元空間を、別の次元を通って越えて行ってしまった」のだ。そう、T.o.E.は“9次元からきた男”なのだから。

T.o.E.とは、Theory of Everything(万物の理論)のこと。小さな小さな世界、物質の成り立ちを解き明かした量子力学と、大きな大きな宇宙を支配する法則を明らかにした相対性理論と、その二つの世界を合わせて、全てを語ることができるのがT.o.E.だ。
我々の宇宙は今、ものすごい速度で膨張している。だが、時間を遡っていくと逆に、宇宙は小さな小さな領域に閉じこもっていたはずだ。その時の宇宙には星も銀河もまだ生まれていない。いや、物質も原子核やらナンやらがバラバラのプラズマ状態だ。だが、さらに時を遡って、宇宙誕生の瞬間はどうなっていたのか。そこでは量子力学と相対性理論では語れない・解き明かせない世界なのだ。
そう、だからこそ物理学者はT.o.E.を追い求めている。それを手にした時、宇宙の始まりがどうであったかを解き明かすことができるのだから。

だが今日もまた、T.o.E.はすっと姿を消してしまう。すぐそこにいたはずなのに。その影を捉えたはずなのに。物理学者たちの探求はやむことがない。

★ キャスト&スタッフ

  • 出演 : ジェームス・サザーランド, ヨシダ朝, 橘ろーざ, 岡安旅人
  • 監督 : 清水崇
  • 脚本 : 井内雅倫
  • ビジュアル・ディレクター : 山本信一
  • 監修 : 大栗博司

物理学の究極の目標である「万物の理論」をテーマにした3Dドーム映像作品です。演出を手がけたのは、『呪怨』などで知られる映画監督の清水崇氏。難解な数式で表現される理論物理学の最前線を、エンターテインメント性あふれる実写と精緻なCG・データビジュアライゼーションを融合させた、かつてない映像で体感していただけます。

★ 大栗先生のレクチャー

今回はプレミアム試写会ということもあり、大栗博司先生のレクチャー付きでした。一般向けの書籍も数多く出されていることもあり、非常に難解な話も分かり易く(正確には分かった気にさせてくれる?!)解説してくれました。
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我々のいるこの宇宙は、その誕生の瞬間から膨張し続けている、と観測結果は示しています。そのスピードから逆算して、宇宙の年齢は138億歳とはじき出されたのでした。
そうなると、138億年前のその瞬間がどうなっていたのか知りたくなる、というのが人の性(探究心?知的好奇心?)。
今回の映像でも、過去に遡っていく形で、宇宙の状態を表したCGが出てきます。星々が無数に生まれてきた頃、星が全くなく、暗闇が広がっていた頃、そして原子核もバラバラになる(プラズマ状態)ほどの高温・高圧の頃・・・。ここまでは大栗先生監修の元、理論で予想された形を正確に表現した映像になっているそうです。でも、さらにその先、はじめの瞬間になると、未だそれを予想できる理論が確立されていないのでした。
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最近、号外まで出て一般にも話題になった「重力波検出」のニュース。これによって新たな観測手段を人類は手にしたのでした。理論と観測、双方が進んで行って、初めてこれが正しいという答えにたどり着ける訳です。
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T.o.E.の候補(の一つ)が超弦理論(ひも理論、ストリング理論)です。我々の住む(認識できている)のは3次元空間。でも、それだけだと物質の根源と言われる素粒子が十一種類あったり、その振る舞い・性質が何でそうなのか説明できない。でも、実は“隠された(小さく折りたたまれた)”6次元がさらに存在して(カラビ・ヤウ空間)、そこまで入れて考えると辻褄が合ってくるのだそうです(詳しくは、下記の大栗先生の本を読んでください)。
雰囲気だけで言うと、物質の根源はある種のひもで、それがブルブル震えている。その震え方によって性質の違う素粒子となる、というもの。何のこっちゃか分かりませんね。
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そんな“なんのこっちゃ?”を今回、映像にすることに挑戦したのが、「呪怨」などのホラー映画でお馴染みの清水崇監督や、映像作家の山本信一さん、そして日本科学未来館 (Miraikan)のスタッフのみなさんなのでした。
(写真、左から山本さん、清水さん、大栗さん)
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完成までに一年を要したそうです。
話を聞いてから見ないとそこまで気が付かないんですが、それぞれの素粒子を表すCGも、それなりに各素粒子の性質を表す感じになっていたり(質量の元となるヒッグス粒子は重そうだし、ニュートリノ振動を起こしている状態を色が変わることで表していたり・・・)します。また、宇宙の状態を過去に遡っていくシーンにカウンター(宇宙の年齢)が出てくるんですが、それも理論に合うようにきっちり描かれています。

★ 感想

科学エンターテインメント作品ってあんまりないですよね。NHKスペシャルでたまにあるけど、英国BBCや米国ナショナルジオグラフィックなどに比べると、その数は少ない気がします。ましてや映画として上映するような作品は珍しい。それだけでも一見の価値はあると思います。

正直、内容をきちんと理解しようとすると、かなり“説明不足”の作品です。これを観たからといってストリング理論を理解することはできないでしょう。でも、この作品は科学の教科書ではないのですから、全てを説明する為に作られたものではありません。「なんか、物理って面白いな」、「世界って不思議だな」、「宇宙の映像、きれいだな」と、楽しみ、驚き、そしてちょっぴり関心を持つようになればいいのかな、と思います。
まあ、日本科学未来館に来館する人は、それなりに科学に関心を持っている人でしょうから、その点は問題ないか。

宇宙の果てはどうなっているのか、我々はどうしてここにいるのか、物質の根源は何ものなのか、などなど、誰もが一度は懐く疑問。そんな知的好奇心を呼び起こしてくれるのに充分な作品。そして、面倒くさいことを言わず、なんか面白い、きれいな映像を観たい人にもぴったりの作品。それがこの作品なのかなと思います。
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ところで、カラビ・ヤウ多様体で6次元分をコンパクトにたたんだとして、我々の(通常の)世界は時間軸も入れて4次元。だとすると合わせて10次元ってのが一般的なストリング理論なのでは?いつから9次元になったのかな。勉強不足で分かっていません。
あと、下記参考書のストリング理論は科学か―現代物理学と数学は、ストリング理論は実験による検証ができない(何かの現象を予言し、それがその通りかどうか試すことができない。何も予言できない)ので理論ではない、という反論の書です。これもずいぶん前から言われていることで、解決を見ていません。

森羅万象を把握すること、T.o.E.を見いだすことはやはり永遠の夢なのかも知れませんね。でも、だからこそ心惹かれるのでしょう。私も少し、最新の動向を勉強し直さねば!

★ 公開情報


★ 参考書


大栗先生の超弦理論入門 (ブルーバックス)
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ストリング理論は科学か―現代物理学と数学
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