東京都写真美術館 「スピリチュアル・ワールド」展 友の会内覧会参加 : 日本の地は神様で溢れているんだな、きっと [美術 : 美術展、写真展紹介]
★ イベント概要
恵比寿ガーデンプレイスにある東京都写真美術館。その友の会のイベントに参加してきました。写美が誇る三万点以上の収蔵品から、その年度毎にテーマを決めて作品をチョイス、展示するのがこのコレクション展です。例年は同一テーマを三回に分けて企画展を構成していますが、今年はこの一回だけ。予告通り、今年の九月末から長期休館(二年間!)に入ってしまうので、一回分だけなのでした。
キュレーターは東京都写真美術館学芸員の石田さん。「宗教文化、民間信仰や、日本人の宗教観」などをテーマに、157点の作品で構成。
展示はいくつかのサブテーマ(下記の通り)に分け、順に見ていくと何とも言えない世界へと引きこまれていくのでした。
- 神域 : Sanctuary
- 見えないものへ : to the Invisible
- 不死 : Immortality
- 神仏 : Kami and Buddhas
- 婆バクハツ! : Old Women in a Burst !
- 王国・沈黙の園+ジャパネスク・禅 : Domains, Garden of Silence + Japanesque, Zen
- 全東洋写真・インド : Asia Road, India
- テクナメーション : Technamation
- 湯船 : Yubune
★ 解説・トーク
「神域」では、画面に写っているもののさらに向こうに何かがあるイメージが感じられる作品をチョイス。八百万の神々がそこにいるかのようなもの・場所が被写体になっている。でも、収蔵品を探したところ、意外に神社仏閣が写っている作品は少なかったそうです。そして、濱谷浩の「浅草 歳の市」など、有名な写真家の知られざる作品、初展示作品が多いのも今回の企画展の見所。
「見えないものへ」のコーナーでは渡辺義雄と石元泰博が撮った、伊勢神宮 式年遷宮の作品が対比されるように展示されている。渡辺義雄は初めて式年遷宮(の際に造営された新しい内宮)を写真に収めた写真家だそうです。なかなか許可が下りなかったのを粘り、「内宮に神様を移す前ならよい(魂が宿る前のただの建物なので)」ということでやっと許されたのだとか。しかも、撮影とは言えその場所に入るためには装束を改め、身を清めねばならなかったのだそうです。あんな格好でカメラを構える姿はちょっと見てみたい気がしますね。
さらにこのコーナーでは東松照明の「太陽の鉛筆」シリーズの作品も展示されています。沖縄の基地を取材に行ったところ、そこで出会った土地の人びとの暮らしや信仰に惹かれ、そちらを撮るようになったのだとか。
「ニライカナイ(黄泉の国)は海の向こうにある」との考えから海辺で踊りを踊る人びと。そんな人びとが海の方に伸ばした腕だけを写した作品は、まさにスピリチュアル。そのまま海の向こうへと誘われて行ってしまいそう。
「不死」のコーナーでは、富士山の写真が一杯。古くは1910年代に撮られた幻灯写真(今で言う、プロジェクターで映すタイプの写真)のものもあり、手作業による彩色が不思議な雰囲気を出している。
「神仏」コーナーでは、オリジナルの額縁に入れられた、土門拳の「古寺巡礼」シリーズ作品がドドドーンと飾られています。仏像の顔をクローズアップし、それを1メートルを越える大きさに引き伸ばしたそれらは、スピリチュアルの域を超えて存在感の塊。
一方、土田ヒロミの「続・俗神」は色鮮やかな踊りの衣装をまとい、仮面を付けた人の大写し。祭をやっている場所まで出かけていき、屋外に白バックのセットを設けて撮影をしたのだとか。その土地で撮ったからこその、この活き活きした姿なのでしょう。
「婆バクハツ!」は恐山のイタコの女性たちを撮ったもの。暗闇の中で、まさに爆発的な笑い顔を見せるイタコたち。生と死との狭間に生きる(ような)彼女たちの姿はインパクトありすぎ!じっくり見入ってしまうのだが、夢に出てきそうで恐ろしくもある。これは必見!
「全東洋写真・インド」では、藤原新也がアジア各地を放浪して撮りためた数百点からなる作品群。その中からインドで撮られたものがチョイスされている。発表されたのは1996年。当時、NHKの「シルクロード」が流行っていて、アジアの地に幻想的なイメージを持つ人が多かったとか。でも、実際のアジアの姿はそんなものではないと言わんばかりに、生の姿を写した作品が並んでいる。
ガンジス川ほとりのバラマシー。巡礼者がひっきりなしに訪れる。そして、中にはその場で行き倒れとなる者もいる。遺骸は犬たちに食われ、骨になる。中には人びとによって荼毘にふされる者もいる。どちらにせよ、骨と灰はガンジス川に撒かれ、インドの大地へと帰っていくのだ。そんなインドの姿をじっくりと見据えた一連の作品群は、人間の根源的な姿を捉えているのだった。
最後の「湯船」は、三好耕三による今も制作中のシリーズ。日本各地の温泉の湯船を撮ったものだが、湯気に煙るその景色は確かにスピリチュアル。
取り壊される温泉が多く、その姿を記録していかねばならない、と思った三好は、超大判カメラによって各地の温泉を撮っていく。撮影を断られることも多いし(半分くらい)、OKが出ても営業前の一時間で撮らねばならなかったりで、苦労も多いようだ。
石田さんによると、温泉に入ると生き返った気分になる==生命の再生を感じさせるし、スピリチュアル・ワールドを巡った旅の最後はやっぱり風呂に入りたいだろう、と言うことでこのシリーズを選んだのだとか。さすが、チョイスの仕方が粋です。
★ 写真展情報
「スピリチュアル・ワールド」展は下記の通り、開催中。会期 : 2013/5/13(Tue) - 7/13(Sun)
休館日: 月曜日 (祝日の場合は開館。翌日火曜日休館)
料金 : 一般 500円 学生 400円 中高生・65歳以上 250円
小学生以下は無料。友の会会員も無料
★ 感想
私も好きで、よく神社仏閣の写真を撮ります。写真って、ある一部を切り取ったり、クローズアップしたりできるので、肉眼で見るのとはまた違った世界がそこにある気がします。神社仏閣や神聖な場所は被写体としてぴったり。でも、この企画展を見て、スピリチュアル・ワールドはこんなところにもあるのか、不可思議さはこんなものから感じることができるのか、と改めて実感。なんというか、楽しいですよ、見ていて。どの作品も見入ってしまいます。「全東洋写真」は生と死をストレートに見せてくれるし、「婆バクハツ!」はババたちの姿に圧倒されるし、「太陽の鉛筆」は沖縄の神々や黄泉の国に引き寄せられてしまいます。石田さんの最初の説明にもありましたが、日本の地は本当に神様がそこら中に宿っている(いそうな)国なんだなぁと言う気にさせられました。確かに、こうやって見ると宗教心のない我々現代人も、実は原初の信仰心を知らないうちに持っているのだなぁと気づかされたのでありました。
と言うことで、今回も興味深く、勉強になる企画展でした。休館になっちゃうのが寂しいなぁ。収蔵品展、場所をどこかに借りてやってくれないものだろうか。検討して欲しいものです。
● 関連図書
もう絶版になっているものも多いようで、展示作品そのものではないものもあります。あくまで「関連」図書ということでご紹介。東京都写真美術館にも図書室が併設されていて、関連図書・写真集を閲覧することができます。もう手に入らなかったり、お値段がかなりして手が出なかったり、なんだかんだで諦めていた写真集を見ることができますよ。私もときどき使わせてもらっています。
石元泰博 伊勢神宮
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鈴木理策 世界遺産神々の眠る「熊野」を歩く (集英社新書 ビジュアル版 13V)
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藤原新也 全東洋写真 (フォト・ミュゼ)
内藤正敏民俗の発見 1 東北の聖と賤 (内藤正敏民俗の発見 1)
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土門拳 古寺巡礼
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狙ってます。週末かなー。
by カエル (2014-06-24 05:29)
そろそろ上京したくなりました。
by JUNKO (2014-06-24 10:55)
カエルさんへ:
27日(金) 18:00~19:30に、「湯船」の三好さんによるアーティスト・トークがあるそうです。詳しくは写美のホームページまで。
JUNKOさんへ:
世界報道写真展2014も別の階でやっているので、観るなら今?!
by ぶんじん (2014-06-24 23:10)